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ロシアのプーチン大統領は「(クリミア半島と同じように) ロシア人が多く住むウクライナ東部は、ロシアのモノだから、取り返したい」と考えている。それは、ロシア軍がここ数年来、ウクライナ東部に干渉し続けていることにも表れている。ロシアはさらに最近、奇妙な行動に出ている。もし、プーチン氏がウクライナ東部を奪取するつもりならば、この冬は、絶好の機会たり得る危険な状況にある。
ロシア軍の野望
ウクライナ国防省によると、ロシア軍は10月初め、ウクライナ国境に約9万の兵力を集結させた。ロシア軍は今年春にも兵力10万人余りをウクライナとの国境に集結させた。
なぜ、ロシア軍は、無駄にお金をかけても兵力をウクライナ国境に集結させたり、撤退させたりしているのか。
この行動こそが、ロシア側のウクライナ東部への野心を物語っている。しかも、これを続けると、ウクライナ側はロシア軍が国境近くに集結しても「また脅しだろう。何もせずにそのうち撤退するだろう」と油断する。本当に侵攻が始まっても、抵抗できない事態になる可能性が高い。
移民という〝武器〟
ベラルーシとポーランドの国境には、欧州への移民が押し寄せ、大問題となっている。その背後に、ロシアがいることは間違いない。ではなぜ、ベラルーシは、移民希望者をポーランド国境に集結させて、欧州に嫌がらせをするのか。そこには、ロシアから、天然ガスの供給といった経済的、政治的な見返りがあるはずだ。
一方ロシアは、なぜ、無駄な事に金を払って、自ら損をするのか。それは、別の目的があるからだ。
ただ、移民希望者を国境に集めても、「騒ぎ」になるだけだ。ロシアはお金も儲からず、領土も増やせない。欧米による経済制裁が解かれる事もない。つまり、移民という〝武器〟で「騒ぎ」を起こすことが目的なのだ。「騒ぎ」で何ができるのかと言えば、ウクライナ国境から、欧米の注意をそらす事だろう。
貸しをつくったロシア
10隻からなる中露艦隊は10月下旬、日本列島ほぼ一周する異例の軍事演習を行った。ロシアは本音を言えば、日米×中露の衝突はしたくない。ロシアは、中国と東アジアで近づきすぎる事を警戒するはずだった。
ロシアの望みは、米国が中国問題で手いっぱいになっている間に、ロシアの周辺にある欧州地域を火事場泥棒的サラミ戦術で少しずつ取り戻す事だ。ロシアの主たる興味は、欧州・中東地域で、東アジアではない。
しかし、今回は中国から頼まれて、一緒になって日本を威嚇して中国に貸しを作った。
欧州のコロナ禍と原油不足のどさくさの間隙をぬって、ロシアがウクライナ東部を手に入れたら、欧米は、軍事的反撃はしないとしても、対露経済制裁の一層の強化を図ることは間違いない。その時に中国がロシア擁護に動けば、ロシアは完全に世界から孤立する事は避けられる。さらに中国から大抵の生活必需品は入手できる。ロシア国民の生活を支える事は出来るので、状況がロシア有利に変わるのを待つ時間稼ぎができるのだ。
だからこそ、一見ロシアには大して利益がなさそうな、日本列島を一周する中露艦隊演習に付き合った。
コロナ禍とエネルギー不足
ロシアとしては、紛争が泥沼化せず、クリミアの時と同じように短期間でウクライナ東部を占領できれば、元々経済制裁もかけられているので「それでよい」事になる。もちろん、ロシアが電撃作戦でウクライナ東部を占領したら、国際的には大批判が起こるだろう。
しかし、ロシアには停戦に持ち込む奥の手がある。ウクライナを通る天然ガスのパイプラインを閉めてしまう事だ。すると、ウクライナもドイツも大パニックになり、停戦交渉が可能になる。
しかも、今年は天然ガスと原油が足りなくて価格が上がっている。ロシア側が交渉で有利になる。
さらに冬本番の時期、欧米で新型コロナが再拡大して再ロックダウンという状態になっていたら、ウクライナ東部がロシアにとられたとしても、欧米では「ロシアと戦争しよう」という世論は盛り上がらないだろう。
コロナパンデミックの中で、天然ガスのパイプラインが閉められて、自分たちが寒波の中で停電に耐えねばならないかもしれなくなれば、「仕方がないからほっておこう」という意見が増えるのではないか。
現にコロナ禍が世界を駆け巡るようになってから、世界では、ミャンマーを始めとして、クーデターが頻発している。ウクライナ東部でも、親ロシア派民兵が主体となって地方政府を制圧するクーデターと、国境付近のウクライナ軍が正体不明の軍から攻撃を受けるという、裏表2つの作戦がすでに計画されているかもしれない。
侵攻の可能性は50%以上
クリミアで親ロシア派武装集団が最高会議庁舎を占拠したのは2014年2月27日、ソチ五輪閉幕直後のことだった。その後、わずか3週間ほどでロシアはクリミアを併合してしまった。
2008年8月8日、北京五輪夏季大会の開幕のその日には、南コーカサス地方にあるグルジア(現ジョージア)と、同国からの分離・独立を宣言した親ロシア派の南オセチアとの紛争に、ロシア軍が介入した歴史もある。
来年2月4日には、北京五輪冬季大会が開幕する。その頃、プーチン大統領が、ウクライナ東部に侵攻し、占領にでる可能性は50%以上あると、私は推測する。
この冬、ウクライナ東部でのクーデターや内乱などに、注意した方がよいだろう。この空想的にみえる予測が的中しないことを切に祈りたい。
筆者:長谷川七重(作家)