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中露のデジタル権威主義に対抗を

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「民主主義への世界のムーブメント」第11回会合で演説する台湾の蔡英文総統=10月25日、台北(ロイター)

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権威主義国が作る「物語」

 

中国共産党第20回全国代表大会(党大会)で異例の「習一強」の権力集中体制が示された日の2日後、私は台湾で「民主主義への世界のムーブメント」(World Movement for Democracy)の第11回会合に参加していた。

 

世界中から活動家、ジャーナリスト、弁護士、学者などが参加して人権侵害や権力乱用の実態を分析し、差別や不正義に立ち向かい、自由と民主主義を発展させるための戦略を議論した。

 

「民主主義への世界のムーブメント」第11回会合で演説するノーベル平和賞受賞者、マリア・レッサ氏=10月25日、台北(AP)

 

多くの分科会で提起されたのが中露などが中心に展開するデジタル権威主義にどう対抗するかという問題だった。ウクライナの活動家によると、ロシアの流すプロパガンダはウクライナを歴史的にも現在においても「失敗した国家」というナラティブを描き、ゼレンスキー大統領はウクライナ人に全く支持されていないというフェイクニュースを広げているという。

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中国が浸透工作を強化する台湾でもフェイクニュースや経済的圧力によって中台統一に反対しない世論や政治勢力を台湾側に作ろうとする動きが激しくなっている。

 

「ナラティブ」は人の意識や認識に関わる抽象的な概念であるが「物語」と訳されることが多く、物語る・物語られる内容を意味する。特定のナラティブが教育やメディアを通じて長期的に共有されると、一定の支配力を持つようになる。支配的なナラティブを批判し、もう一方の軸でその支配力を相対化しようとする語りを「カウンターナラティブ」と呼ぶ。

 

「民主主義への世界のムーブメント」第11回会合の登壇者=10月25日、台北(AP)

 

若い世代に浸透する虚構

 

ビッグデータをコントロールする権威主義国家がどのようにナラティブを作り出そうとしているのか。その戦略を詳細に分析し、民主主義の論理からカウンターナラティブをつくることに注力すべきだという声が各所から上がった。

 

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台湾の研究機関、ダブルシンクラボ(台湾民主実験室)は、メディア、外交政策、学界、国内政治、経済、技術、社会、軍事、法の執行の9つの領域にわたる99の指標をもとに世界の国々が受ける中国の影響度を測定する「中国指数」を開発した。46カ国・地域のうち最も中国の影響を受けている上位3カ国はカンボジア、シンガポール、タイで、米国は16位だ。日本は34位と下位にいるが安心していられないと私は感じている。

 

私の身近な狭い範囲に限っても、日本の一般市民ばかりでなく研究者までもが、中国の官製メディアが意図的に流す虚偽の情報に影響を受けていると見受けられることが最近増えているからだ。

 

さらに、権威主義国が作り出すナラティブに対して、将来を担う世代が意識を高めていないのではないかと私は危機感を抱いている。今年1月発表の内閣府の外交に関する世論調査によると、日本の18~29歳の4割以上が中国に対して親近感を抱いているという。全体平均が2割だから、その2倍超である。文化や人のつながりにおいて中国理解が進み、日中関係が強化されるのはよいとしても、民主主義の価値を損なおうとする動きに、若者たちは十分に注意を払っているのだろうか。

 

参院選が公示され、候補者の街頭演説を聞く有権者ら=6月22日午前、横浜市中区(川口良介撮影)

 

日本の若年層は政治への関心が低く、選挙権年齢が18歳以上に引き下げられてから実施された5回の国政選挙で10代の投票率は毎回、全体の投票率を大幅に下回っている。今年7月の参院選の10代の投票率は35・42%で、全体の投票率の52・05%より16・63ポイントも下回った。20代も33・99%と非常に低い。

 

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見て見ぬふりは強権許す

 

政治に参加する権利が保障されているから、私たちは自分の生き方を自ら決めることができる。独裁色を強める習近平政権に日本も世界も、今後ますます大きく左右されるだろう。民主主義を守るためのカウンターナラティブを作るためには、デジタルスペースを自在に操る若い世代が中国という巨大な権威主義国家に呑(の)み込まれぬよう、政治に冷静に、主体的に参加することが重要なのだ。

 

今回の会合では、Impunity(不処罰、免責)という言葉も度々使われていた。世界各地で深刻な人権侵害が生じているにもかかわらず、私たちは見て見ぬふりをし、関わろうとしていないのではないか。その結果、世界は権威主義国家が強権を振るい続けることを許してしまったとも言える。私たち日本人の隣国との関わり方にも大きな問題があったのではないか。

 

新疆ウイグル自治区カシュガルに設置された監視カメラ(ロイター)

 

天安門事件後、日本は中国とどう向き合ってきたのか。新疆ウイグル自治区で運営する大規模な監視システム用の機材には、日本製の部品が多数使われているという。デジタル権威主義体制は、中国共産党の力だけで構築されているのではない。短期的な視野で利益を追い求める企業は民主主義の発展の阻害に加担している。

 

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香港では非暴力の市民活動に参加した人々が逮捕されている。それを横目に、ただかわいそうだと思っているだけでいいはずがない。民主主義のために、具体的に考え、行動することが求められている。

 

筆者:阿古智子(東京大学教授)

 

 

2022年11月8日付産経新聞【正論】を転載しています

 

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