【主張】戦禍の名門バレエ 日本人芸術監督に期待を
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ウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)の芸術監督に京都市出身の寺田宜弘さんが就いた。ウクライナ国立バレエはロシアのボリショイ、マリインスキー・バレエと並ぶ旧ソ連の三大バレエ団のひとつで、日本人監督の就任は初めてだ。
ウクライナの国土が戦禍にさらされている中での大役である。寺田さんには、世界有数の名門バレエ団トップとして、武力では決して破壊することのできない芸術の力や心を世界の観客に見せてもらいたい。
寺田さんは日本人初の旧ソ連国費留学生として、11歳だった1987年にキーウ(キエフ)のバレエ学校に留学した。
卒業後は、約20年間キエフ・バレエで踊り、2012年から昨秋までキーウ国立バレエ学校の芸術監督を務めた後、国立バレエの芸術監督補佐に就任していた。16年には長年の功績が評価され、同国の人民芸術家に選ばれている。
ロシアによるウクライナ侵略後は、苦難の日々を強いられた。拠点とするキーウの国立劇場は一時閉鎖を余儀なくされた。サイレンが鳴り、停電に見舞われる中でリハーサルを続けた。寺田さんはキーウのほか、欧州各地のバレエ学校などでも教えており、国外に逃れたダンサーや生徒の受け入れ先の確保にも尽力してきた。
戦禍での就任について、寺田さんは招聘(しょうへい)元の取材に「戦争によってバラバラになったバレエ団をもう一度まとめ上げ、ウクライナ国立バレエのレベルをさらに発展させなければならない。戦争で苦しい時期ではあるけれど、絶対に失敗できないミッションを背負ったと思います」と語っている。
来年3月にはウクライナ国内で、全幕バレエの公演を行いたいとも話している。豪華な舞台装置や衣装、多数の出演者や資金を必要とする全幕バレエを戦時に実現するのは容易ではない。
だが戦禍にあるからこそ、精神の滋養となる芸術が持つ意義は大きい。鍛錬したダンサーが舞う姿は、ウクライナが誇る芸術は不死身であることの証明にもなる。
5月にはウクライナ国内で新作バレエの上演も予定しており、世界の著名な振付家が協力を申し出ているという。人々の励みになることは間違いない。
12月17日からの日本公演は、芸術監督就任後初の公演となる。寺田さんの奮闘を応援したい。
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2022年12月18日付産経新聞【主張】を転載しています
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