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[書評]牛島信著『少数株主』

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Minority Shareholders

 

小説「少数株主」は、私の主宰するウェブメディアJapan In-depth(ジャパン・インデプス)にて2016年10月から2017年6月まで、「日本解凍法案大綱」なるタイトルで連載したものだ。その前書きはこんな感じだった。

 

同族会社の少数株を、びっくりするような大金に替えたシンデレラの物語。ここに出てくるシンデレラに年齢は関係ない。男女も関係ない。あなた自身がシンデレラというお話。

 

日本には株式会社が250万社ある。そのほとんどが非上場、つまり上場していない。そんな会社の少数株主には、いいことは何もない。オーナー経営者がいて、勝手気まま。株主は見捨てられてきた。

 

それが、「デキル弁護士」の活躍で変わる。

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もともと法律はこうできていた。弁護士が知らなかっただけ。あなたが知らなかっただけ。

 

本当のあなたはシンデレラ候補!

 

さあ、深夜12時の鐘が鳴る前に走り出そう。

 

Shin Ushijima

弁護士で小説家の牛島信氏(牛島総合法律事務所提供)

 

牛島信との出会い

 

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牛島信氏は弁護士である。職業作家ではない。しかし、これまで何冊も企業小説を上梓している異能の弁護士だ。

 

牛島氏と初めて会ったのは小生がフジテレビに在籍していた時だ。「新報道2001」(毎週朝7時~8時45分:2018年4月1日で放送終了)という政治討論番組に氏がゲストとして来た時と記憶している。私を含め番組スタッフはゲストと放送前後に控室で話す機会があるのだが、「この人ともっと話してみたい。」そう思わせるゲストは多くはない。フジテレビを辞めた後も気脈を通じた付き合いが続いているのは牛島氏だけだ。何故なのか考えてみる、と理由はいくつかあるが、一番大きいのは、氏の類まれな「探求心」だろう。その生き方に魅了されている私がいる。

 

オリンパス不正会計事件、東芝不適切会計事件、昨今の様々な企業のデータ改ざん事件など、企業の不祥事は後を絶たない。企業のガバナンスは何故効かないのか?記者として私の疑問はいつもその一点に尽きた。ある日、牛島氏に疑問をぶつけてみた。

 

「何故、こうした不祥事は無くならないのか?」、「企業のガバナンスは一体どうなっているのか?」、「何故、企業不祥事は防げないのか?」

 

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多くの企業には社外取締役がいるはず。それにもかかわらず、何故不祥事が頻発するのか?そんな私の問いに対して氏の答えはシンプルなものだった。

 

「安倍さん、例えば企業トップと会計責任者が組んで経理処理をしたら、社外取締役なんて知るよしもないですよ。」

 

そういうものなのか…では防ぐ手立ては?その疑問についても氏の答えは明快だった。

 

「ないですね。」

 

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会社はしょせん人が動かすもの。ガバナンスを強化するために作られた「指名委員会等設置会社」だとて、不正を行おうとする者を未然に100%排除することは不可能だということか。どんな仕組みを作っても、人がやることを完全にコントロールすることは出来ない、という現実に私は打ちのめされるのだ。企業の不祥事は起こるべくして起きる。そしてこれからも起き続けるに違いない。ハンナ・アーレントのいう「凡庸な悪」がどこからともなく組織=人に忍び込み、企業を蝕ばむ。それは不可避であり、人間の業(カルマ)だ。

 

しかし、だからといって牛島氏は絶望したりはしない。そこが氏の真骨頂である。そして問い続けるのだ。

 

「『人』は何のために働くのか?」

 

順風満帆な人生なんてない。ほとんどの人が運命という濁流に飲み込まれそうになりながら、必死でそれに抗い、水面に顔を出して何とか息をしているようなありさまだ。それでも人は働く。働き続ける。何故なのか?氏はそれを問い続ける。

 

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どんなにつらくても人は働き続ける。それは「生活の糧」を得るためだけなのだろうか?いや、それだけではないはずだ。そんな問いがこの小説には隠されている。

 

「働く」ということは「生きる」ということであり、人生そのものなのだ。それを百も承知で牛島氏はこう読者に伝えたいのではないだろうか?

 

「どんなにつらい現実に直面しても絶望する必要なんてない。前を向いて歩いてゆけばよい。」

 

そんな氏の哲学がこの小説の根底にある。困難に直面している人に対する優しい視線であり、彼らを鼓舞する姿勢である。

 

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日本解凍の方法とは?

 

「小説少数株主」のプロットを初めて聞いたとき、私はそのスケールの大きさに圧倒されたのを覚えている。

 

まず主人公からして、「同族会社の少数株主」だ。牛島氏によると彼らはひどく虐げられた存在だというのだ。最初聞いた時は何のことか全くわからなかった。

 

しかも小説のタイトルは「日本解凍法案大綱」にするという。なんとも大仰な、とこれまた驚いた。話を聞くと、「日本を解凍」するストーリーだという。言い換えると、「日本経済の再起動」ということらしい。

 

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バブル崩壊後20年以上経ってなお、我が国は未だデフレのトンネルから完全に抜けたとはいいがたい。政府・日銀が目指してきた物価上昇率2%の達成も見通せていない。アベノミクスも6年目に入ったというのに、だ。その日本経済が再び動き出すかもしれないというのだから興味をそそられるではないか?では一体どうやって?

 

小説を読んでもよくわからなかった、という方に簡単にご説明しよう。「非上場同族会社」の少数株主の皆さんにとってはとても重要な事なので、ぜひ目を通していただきたい。

 

まず「非上場同族会社」には3つの問題がある。1つ目は、コーポレート・ガバナンスが機能していないこと。2つ目は、現行会社法の下では非上場同族会社の少数株主は会社に株式の買い取りを強制できないこと。3つ目は、硬直的な相続税の評価方法だ。

 

非上場同族会社は、支配株主と経営者が一致していることが多く、少数株主の利益のために経営を行うという意識はまったく希薄である。このような会社では、会社の利益は主に役員報酬に充てられ、剰余金の配当という形で株主に分配することはまれで、その結果、経営に携わっていないいわゆる少数株主は会社から経済的利益をほとんど得ることができないケースが多い。これが1つ目のコーポレート・ガバナンスの機能不全。

 

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問題は非上場同族会社の少数株主が株を売れない、という点だ。法律の建前上、非上場会社の株も買主が見つかりさえすれば売却できる。しかし、非上場会社の少数株主となるメリットはほとんど無いため、買主を見つけることはほぼ不可能だ。

 

会社に株を買い取って欲しいと申し入れても、会社に株主からの申入れに応じる義務はない。結局、不当な安値で手放さざるを得ない。

 

そして3つ目だが、非上場同族会社の株式を相続した場合、相続税の算定のために税務署は株式の評価をするが、税務署は、親族(配偶者、6親等内血族及び3親等内姻族)で30%以上の議決権を保有している場合、その親族は「同族株主」になり、「同族株主」への相続があった場合、その「同族株主」が経営に関与せず単に配当を貰っているだけであっても、原則として、税務署は会社を支配する株主として相続税を課すことになる。それが巨額になるケースがあり、いざ相続という段階になって青くなるケースが多いのだ。

 

この、「株式の買い手が存在しない」という問題点さえ解決できれば、第三者の株主が経営に関与することができ、非上場同族会社の経営のガバナンスは改善され、多額に積み上がった内部留保や凍り付いてしまっている不動産が流動化し、ひいては、日本経済を再起動できることになる。

 

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これが牛島氏のいう「日本解凍」であり、「日本再起動」なのだ。なんとも大胆な発想ではないか。

 

私は間髪入れず、そのストーリーの小説化に賛同した。その場で私のウェブメディアJapan In-depthに連載することを氏と合意したのだ。

 

実際に原稿を手に取ってみると、主人公高野敬夫はかつてのバブルの英雄という設定だった。その彼が親友の大木忠弁護士と共に、少数株主の救済に当たる。相談主は高野がかつて世話になった隅田のおばちゃん。紫乃という女性も出てくる。高野という人物はなぜ少数株主救済に動いたのか。そこにこの小説のカギが隠されている。そして牛島氏の哲学が貫かれている。

 

「『人』は何のために働くのか?」

 

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あなたはその答えを見つけただろうか?

 

筆者:安倍宏行(Japan In-depth編集長)

Hiroyuki Abe Minority Shareholders Japan In-depth

安倍宏行氏

 

 

この記事の英文記事を読む

 

 

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