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廃線危機の地方鉄道を救った「三毛猫のたま駅長」 就任16年も衰えぬ人気

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初代駅長の「たま」。バレンタインチョコレートのPRなど多彩に活動した=平成27年1月、和歌山県紀の川市

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和歌山電鉄貴志川線の貴志駅(和歌山県紀の川市)で平成19年1月、三毛猫の「たま」が国内で初めて民営鉄道会社の駅長に就任してから16年が経過した。廃線寸前だった同線は、猫の駅長ブームで全国からファンが押し寄せ、地方鉄道再生のモデルケースになった。たまは27年6月に死に、現在は2代目として三毛猫の「ニタマ」が駅長を務めているが、週末ともなると多くの観光客らが同駅を訪れており、和歌山の観光スポットとしてその人気は衰えない。

 

和歌山電鉄貴志川線の貴志駅。猫の顔をイメージしたユニークな外観が特徴=和歌山県紀の川市

 

没後8年祭に全国からファン

 

たまの命日にあたる6月22日、同駅で「没後8年祭」が営まれた。たまを祭神としてまつった駅構内の「たま神社」には関係者や観光客など約50人のほか、現駅長のニタマや駅長代行の三毛猫「よんたま」も参列。「この日のために東京から来ました」という女性もおり、参列者は神社に花やお菓子などを供えるなどし、在りし日のたまをしのんだ。

 

没後8年祭で、初代たま駅長を祭神としてまつった駅構内の「たま神社」を参拝する小嶋光信社長とニタマ=和歌山県紀の川市

 

この日、猫の駅長〝たま〟の仕掛け人として知られる和歌山電鉄の小嶋光信社長(78)は「たまが亡くなって8年になるが、今でも日本だけでなく世界の多くのみなさんの心の中にいて、生きる喜びを与えてくれている」とあいさつ。「ニタマも(2代目)駅長としての風格が出てきた」と語り、没後8年祭終了後にはニタマやよんたまと一緒に写真を撮ろうとする参列者の長い列ができた。

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経営は厳しいが…

 

和歌山電鉄は、16年に南海が貴志川線からの撤退を発表したことを受け、17年に事業を引き継いだ岡山電気軌道(岡山市)の100%子会社で、18年4月に営業を開始した。営業路線は和歌山-貴志駅間の14・3キロ。

 

19年1月、小嶋社長の発案でたまが駅長に就任。その愛くるしい姿が連日の報道で人気を集め、この年のゴールデンウイーク(大型連休)の同社収入は前年同期比約40%増を記録したという。

 

鉄道事業の収入の柱となる定期利用が沿線人口の減少などで伸び悩んだことなどから21年以降の業績は思わしくなく、新型コロナウイルス禍の影響を大きく受けた令和2年度の最終損益は約1億160万円の赤字を計上。4年度は観光など定期外利用客の回復傾向から赤字は約1530万円にまで縮小したが、経営状況は依然厳しい。

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それでも、初代駅長のたまから続く同駅の猫の駅長の人気は健在で、明るい話題を提供し続けている。

 

和歌山電鉄貴志川線貴志駅長の三毛猫「ニタマ」(右)と同駅長代行の「よんたま」。ニタマを抱いているのは小嶋光信社長=和歌山県紀の川市

 

写真集やツイッターも人気

 

同社は今年4月、写真集「たま駅長 貴志川線~Sweet Memories~にゃん!」(1300円)を発売した。同社広報担当の山木慶子さん(66)がこれまでに撮影してきたたま、ニタマ、よんたまの写真に加え、一般公募で430点から選ばれた3点を含めた計129点が収録されている。同社は2千冊を用意したが「発売1カ月で約千冊が売れ、今でも順調に売れている。これほど売れるとは思わなかったので、正直驚いている」(山木さん)という。

 

また、平成21年12月に開設した同社公式ツイッター「駅長たま」は、猫たちの日常の様子やイベント、懐かしい写真などが紹介されており、その愛くるしさもあってフォロワー数9万2千を超える人気となっている。

 

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あの手この手のPR展開

 

たま駅長の登場から16年。その人気を維持してきた理由について小嶋社長は「さまざまなイベントを打ち出してPRし続けることが重要」と打ち明ける。ここ数年はコロナ禍の行動制限でイベント数は減少したが「コロナ禍前で多い時は年間約80件のイベントを行っていた」という。行動制限の緩和もあり、今年に入ってからイベントは増えつつある。

 

和歌山電鉄貴志川線を走る「たま電車」。かわいい外観が人気を集めている=和歌山紀の川市

 

2月には和歌山市で開催された国内最大級のファッションイベント「東京ガールズコレクション」開幕に先立ち、貴志駅階段にランウエーならぬ〝ニャンウエー〟を設け、ニタマが華麗にモデルウオークし、イベントをPR。5月には和歌山県警の「痴漢・盗撮撲滅大使」に就任。県警担当者は「全国的に知名度の高いニタマを大使に起用し、痴漢や盗撮の防止を進めたい」と話しており、ニタマが治安維持に一役買った。

 

また、今秋にはたまの生涯を描いた絵本「ねこの駅長たま」(仮タイトル、金の星社)が発売される予定になっており、小嶋社長は「(絵本を通じて)小さな子供たちに電車の楽しさや電車の走る地域のすばらしさを知ってほしい」と期待を寄せている。

 

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知恵を絞ってこその〝猫の駅長〟の存在

 

和歌山の小さなローカル線の猫の駅長の人気を全国区にまで押し上げ、維持してきた大きな要因として山木さんは「やはり地元マスコミの力が大きい」と言い切る。たま駅長が就任した当初、地元マスコミが激しい取材合戦を展開。報道機関では、他社が一斉に扱うニュースを自社だけが報道できなかったケースを〝特オチ〟というが「地元マスコミでは〝タマオチ〟という言葉も生まれるほどだった」(山木さん)と振り返る。

 

貴志駅長の三毛猫「ニタマ」。出勤日は駅構内のお気に入りの場所で利用客らを出迎えている=和歌山県紀の川市

 

これまで同社が手掛けた猫の駅長のさまざまなイベントは〝どうすれば地元マスコミに関心を持ち続けてもらえるか〟を念頭に、アイデアマンの小嶋社長と社長を支えるスタッフらが知恵を絞って生み出したものがほとんどだという。山木さんは「七夕やクリスマスなどの年中行事に絡めたイベントでも、マスコミに飽きられないよう毎年違う内容で行うように努めている」と打ち明ける。

 

同社は和歌山県と和歌山市、紀の川市などと「貴志川線運営委員会」を構成。同会は毎月定例会を開いて、沿線活性化策などを官民一体で検討しており、猫の駅長に関するイベントなどもさまざまな形で支援しているという。

 

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これからも猫の駅長の人気を継続させるためには、世間の関心を集めるイベントを発信し続けることが不可欠。猫の駅長を支える関係者の手腕が注目される。

 

筆者:香西広豊(産経新聞)

 

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