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[終戦の日に]首相は核抑止の重要性語れ 悲劇を繰り返さぬために

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全国戦没者追悼式で黙とうされる天皇、皇后両陛下=8月15日正午、東京・日本武道館 (共同)

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78回目の終戦の日を迎えた。日本は先の大戦で、軍人、民間人合わせて310万人の同胞を喪(うしな)った。すべての御霊(みたま)安らかなれと鎮魂の祈りを捧(ささ)げたい。

 

岸田文雄首相や閣僚には靖国神社を参拝してもらいたい。英霊を追悼、顕彰し、もし日本が侵略されれば今の世代も立ち上がると誓うことが大切だ。

 

あの悲劇を繰り返してはならないと日本人は願っている。だが、今の日本が悲劇を防ぐために抜かりなく取り組んでいるかといえば疑問である。それを痛感させられたのが、広島と長崎の原爆忌だった。

 

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原爆忌の2つの宣言

 

広島平和宣言は、「核による威嚇を行う為政者がいる」として、「世界中の指導者は核抑止論は破綻」している点を直視するよう訴えた。「為政者に核抑止論から脱却を促すことがますます重要」と唱えた。ウクライナを侵略するロシアのプーチン大統領による核威嚇が背景にある。

 

長崎平和宣言は「核保有国と核の傘の下にいる国のリーダー」に「核抑止への依存からの脱却を勇気を持って決断」するよう促した。核抑止に依存すれば「核兵器のない世界」は実現できないからという。

 

このような考えは根強いが、はっきり言って、国民の命と安全を脅かしかねない危うい主張である。

 

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日本のメディアの多くは両宣言の核抑止破綻論、核抑止からの脱却論を肯定的に扱った。たとえば毎日新聞は7日付朝刊1面トップで「核抑止論は破綻した」との大見出しをつけた。NHK(NEWS WEB)は6日配信で「広島 平和記念式典に約5万人が参列〝核抑止論から脱却を〟」という見出しで報じた。

 

米国による原爆投下で日本は唯一の戦争被爆国になった。東京大空襲、ソ連軍の満州などへの侵攻と並び大戦末期の決して忘れてはならない出来事である。日本と被爆地が核の惨禍を伝え、廃絶や軍縮の願いを発信するのは当然だ。

 

ただしそれは、日本と国民の安全を確かなものにする努力とセットでなければならない。核兵器の威力が極めて大きいため、核抑止とシェルターなど国民保護の態勢を整えなければ万一の際、大変なことになる。

 

日本を取り囲むように位置する中国とロシア、北朝鮮は核戦力の強化に走っている。これら専制国家の指導者が核廃絶の呼びかけに耳を傾けるだろうか。

 

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極めて考えにくいことだが、全核保有国が同時に核廃絶に踏み切っても、その後、どこかの国や勢力が核武装すれば万事休すだ。日本を含む各国の独立と主権、国民の自由、繁栄は消え失(う)せる。また、現代の科学技術では、核攻撃をほぼ確実に止める手立ては見つかっていない。

 

本来であればすぐにも廃絶したい核兵器を、自国または同盟国が戦力化しておかなければ、相手からの核攻撃を抑止できないというのが世界の厳しい構図といえる。核抑止という概念自体は破綻していない。

 

そこで日本や韓国は同盟国米国の「核の傘」に頼っている。北大西洋条約機構(NATO)加盟国は、米英仏の核兵器を抑止力にしている。

 

「核抑止の破綻」を信じて核抑止の手立てを放棄すれば、日本の安全と国民の命はすぐさま、今以上に覚束(おぼつか)なくなる。その危うさに政治家やメディアはもっと敏感になったほうがいい。

 

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核威嚇されたら

 

中国、北朝鮮の脅威の高まりやロシアのウクライナ侵略をみて、日本人の安保意識は東西冷戦期や平成の時代と比べ、格段に向上した。岸田政権は昨年12月、安保3文書を閣議決定した。反撃能力の保有や5年間で防衛費を43兆円にする方針が決まり、大方の国民はこれを是とした。

 

平和を守るには抑止力が欠かせないという世界の常識が国民の間に浸透し、戦後、日本の防衛努力を妨げてきた多くのメディアも抑止力構築の大切さまでは否定できなくなった。

 

ところが、核をめぐる分野だけは抑止力を保つ必要性が浸透せず、否定する主張が今も目立っている。

 

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核抑止が非核の分野の防衛を支えている点への理解も広がっていない。もし尖閣諸島(沖縄県石垣市)が侵略されたり、台湾有事に関連して日本が攻撃されたりする際に、中国が核威嚇してきたらどうするのか。通常兵力の自衛隊が日本と国民を守ろうとしても、核抑止が効いていなければ動けない。核と非核の両分野で態勢を整えてはじめて抑止力になる。

 

このような話は防衛、外務両省も国家安全保障局も分かっている。岸田首相も知識は有しているだろう。

 

問題は、首相や政府が国民にこれらをきちんと語っていないことだ。核抑止には不断の検証、改善が必要な点や、地下シェルター整備など国民保護が急がれる点は浸透していない。

 

戦争の悲劇を繰り返さないため、真剣な努力が必要である。

 

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筆者:榊原智(産経新聞論説委員長)

 

 

2023年8月15日付産経新聞【終戦の日に】を転載しています

 

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