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町内放送をAIスピーカーで 学生のアプリ開発力で地方創生を後押し 九工大

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長崎県西海市の西海橋

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パソコンやスマートフォン向けのアプリケーションソフトウェア(応用ソフト、アプリ)を開発できる学生が地域の課題に取り組むと、地方創生の実現にポジティブな影響が生まれるとする論文を九州工業大学大学院情報工学研究院物理情報工学研究系の小田部エドモンド荘司教授、IT企業・YouLib(ゆうりぶ)代表取締役の兵頭悠生氏、、長崎県西海市(さいかいし)の商社・西海クリエイティブカンパニー代表取締役の宮里賢史氏が発表した。大手IT企業が提供するテクノロジーを利用することで低コスト化を図れるという。この研究に関する論文はデジタル領域を中心に学術論文を広く掲載する電子ジャーナル「Journal of Digital Life」(ジャーナル・オブ・デジタル・ライフ)で公開されている。

 

アプリとはパソコンやスマホ向けのソフトウェアのうち、特定の用途で用いられるものを指す。代表的な種類にはウェブページを閲覧するブラウザソフト(Google Chromeなど)、数値データをまとめる表計算ソフト(Microsoft Excelなど)、写真を加工する画像編集ソフト(Adobe Photoshopなど)がある。これに対して、オペレーティングシステム(OS、Microsoft Windowsなど)のように端末そのものを管理・制御するソフトはシステムソフトウェアと呼ばれている。

 

アプリを一から開発するには時間と費用がかかる。だが近年は、大手IT企業が人工知能(AI)などの高度な技術や、運営するサービスのデータを部分的に公開して、第三者と共有できるようにする「API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)」という仕組みが普及。ユーザーがアプリを利用するプラットホーム(基盤)の整備が進んだこともあり、極めて高い技術力や巨大な資本を持たない事業者や個人開発者も自作のアプリケーションを公開しやすくなった。

 

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こうした事情を背景に、小田部教授は「2015年頃から学生のアプリ開発能力が格段に向上したという印象がある」と述べた。IT(情報通信技術)の分野についてはインターネットを通して技術に関する質の高い情報を得られるようになったため、実用的なアプリを作るためのスキルと知識を備えた学生が増えたとしている。

 

しかし、すべてが順調に進んでいるわけではないようだ。アプリ開発という「手段」が先行して高度化する一方で、アプリを何に役立てるのかという「目的」が定まっていなかったと小田部教授は指摘。同大が地方貢献をミッションに掲げていることもあり、学生の高い技術力を地方創生に生かす可能性を探ろうと考えた。

 

小田部教授らの研究チームは、少子高齢化が進む「典型的な地方都市」の西海市で行ったアンケート調査をもとに市民が抱えている課題をまとめた。そこから3つの課題を抽出して学生が作るアプリで解決できるかを検討した。

 

長崎県西海市ののどかな風景の残るまち並み(© Saikai city office)

 

町内放送→AIスピーカー

 

まず、屋外のスピーカーから流れる町内放送が聞き取りにくいという課題の解決を試みた。音が小さい上に、悪天候のときには窓を閉めているので、避難を求める放送などの重要な情報が聞き取れない恐れがあったためだ。

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この問題に対して学生は、音声で操作するAmazonのAIスピーカー「Amazon Echo(アマゾンエコー)」を用いる方法を考案。Amazon Echoにとってアプリに相当する、バーチャルアシスタント「Alexa(アレクサ)」のスキルの開発に取り組んだ。

 

AmazonのAPIやGoogleのテクノロジーを活用して学生が作ったのは、西海クリエイティブカンパニーのキャラクターを起用した「ばりぐっどくん」だ。Amazon Echoに向かって「今日の町内放送を教えて」などと話しかけると、あらかじめ西海市役所が入力した内容を音声で伝える仕組みになっていた。また、聞き逃したときは「もう一度」などと話しかけると同じ内容を聞くことができた。

 

Amazon Echoは卓上に置けるサイズなので、屋外の天候に関係なく自由なタイミングで町内放送を聞くことができる。同時に、山間部の屋外スピーカーでは音が反響するという問題も解消できた。研究チームは同市内で約2カ月間、実証実験を行い、効果があることを確認したという。現在、Alexaスキル「ばりぐっどくん」は非公開になっている。

 

屋外スピーカー(イメージ)

 

文字起こし→OCR

 

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次に、市役所で印刷物に書かれた文字をデジタル化してテキストデータにする際、職員らが手作業で文字を入力する作業を簡略化する方法を考えた。カメラを介して文字の形をコンピューターに認識させる光学文字認識(OCR)というシステムが普及しているが、同市での認知度は低かった。

 

そこで学生らは、デジタル技術に馴染みのない人でも使っているメッセージアプリ「LINE」に着目した。Googleが提供する画像認識技術のAPIと、メッセージに自動応答するLINEのAPIなどを組み合わせて「文字起こしばりぐっどくん」を開発。知人に写真を送るときのように、デジタル化したい印刷物の写真を撮影してLINEのアカウント「文字起こしばりぐっどくん」に送ると、印刷物に書かれた文字がテキスト情報になって返ってくるというものだった。職員らは単純作業の手間を省けて効率的に働けるというわけだ。

 

市役所職員のために開発されて好評を博した「文字起こしばりぐっどくん」だったが、その評判がSNSで拡散されてユーザー数が増加。2023年8月時点で利用者(LINEアカウントの友達数)は27万人を超えている。同市の人口は3月時点で約2万5千人なので、ユーザー数が住民の10倍を超えたといえる。

 

「文字起こしばりぐっどくん」は現在もLINEで利用可能。画像認識にGoogleのシステムを使っているため、情報漏洩を防ぐためには他のGoogleのサービスを使うときと同様に注意が必要であり、機密情報の文字起こしには向いていないという。

 

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農産品の販売→EC

 

また、インターネットの電子商取引(Eコマース、EC)を活用して、農園「元気やさい雅」で作った農産品や漬物を広く販売したいという相談にも対応した。ユーザーが出品できるECのウェブサイトは多数あるが、パソコンに不慣れな高齢者が利用するにはハードルが高いという課題があったため、学生はここでもLINE上で売り買いできる「元気やさい雅・ばりぐっどくん」を開発した。使い慣れているLINEのインターフェースであれば操作しやすいだろうと考えたのだ。

 

農園を対象に作られた「元気やさい雅・ばりぐっどくん」の仕組みは、誰でもLINE上にECサイトを開設できる「気軽にEC『Lea = レア』」というサービスにも生かされている。

 

3つの取組みを通して研究チームは、適切な課題を求める学生らにとってはアプリを社会に実装する経験になり、地方都市にとってはローコストでアプリを開発できるメリットがあるため、学生と地方都市が連携して地方創生を進めることには意義があるとした。また、インターネット上の仮想空間であるメタバース、ブロックチェーン技術を応用することで管理者がいなくてもプロジェクトを推進できる分散型自立組織(DAO)などの新しいテクノロジーが地方創生を加速させると期待感を示している。

 

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筆者:野間健利(産経デジタル)

 

 

2023年8月18日産経デジタルiza【From Digital Life】を転載しています

 

この記事の英文記事を読む

 

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