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西岡力氏インタビュー(上):日韓の最前線

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インタビューに応じる西岡力氏(©吉田賢司)

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9月下旬、出張で東京を訪れた際、西岡力教授の新著を手に取った。西岡氏は麗澤大学の特任教授で、東アジア情勢に精通した外交安保の専門家だ。この地域を取材するジャーナリストとして、私が信頼するエキスパートの一人でもある。予想通りこの本は非常に読みやすかった。

 

私は特に三つの章に注目した。まず一つ目は、昨年3月に就任した尹錫悦大統領に対する西岡氏の評価。次に、慰安婦問題をめぐる韓国内での認識の変化。最後に、日本の最も重大な懸案であろう拉致問題をめぐる最近の動向である。

 

西岡氏は日本のさまざまな外交問題を解決するため、過去30年間、学者として最前線で全力を尽くしてきた。慰安婦問題と拉致問題に大転換が予想される今、この問題の第一人者である西岡氏の率直な意見を知りたい―。すぐさまインタビューを依頼したところ、快諾を得た。 西岡氏は過密スケジュールの合間を縫い、東京都の事務所でJAPAN Forwardの独占インタビューに応じた。

 

西岡氏との主なやり取りは以下の通り。

 

 

――9月、「狂った隣国」を出版された。尹錫悦氏の大統領への道のりを分析したが、少し説明して欲しい。

 

2022年3月、尹錫悦氏は李在明氏を相手に得票率わずか0.7ポイントの僅差で大統領に当選した。当初、私は尹氏のことを保守派とは考えていなかった。そもそも彼は政治経験が皆無の検察テクノクラートで、文在寅政権下で検察総長まで上り詰めた人物だったからだ。

 

尹氏が当時野党であった保守系の「国民の力」から立候補し、大統領に当選できた理由は、文在寅政権の半ば、検察の権限を奪おうとする政府側と対立し始めたからだ。実際尹氏は、文在寅大統領の側近であり、その政権下で法務長官まで務めた曹国の起訴を主導した。もし尹氏が大統領になれば、文氏とその最側近らを同じように起訴してくれるのではないかという期待こそ、韓国の保守派が尹氏を支持した大きな理由であった。

 

「狂った隣国」の表紙(©アマゾン)

 

しかし、今のところは、文氏への捜査を表向きは行わず、後継候補だった李在明氏に対する逮捕状請求も裁判所でつい最近却下された。ただ、尹錫悦大統領は文前大統領とその周辺に対して名指しは避けながらも、繰り返し「反国家勢力」だと批判しているので、任期中に文氏と李氏の逮捕が実現する可能性は残っていると思う。

 

――当選後の尹錫悦政権に対する評価は

 

まず、尹錫悦大統領の安保意識から評価しておく。韓国が直面している最大の安保危機は北朝鮮問題である。北朝鮮は2022年9月25日から10月9日まで、計7回にわたって弾道ミサイルを発射した。その時行われた軍による「戦術核運用部隊の軍事訓練」は、大雑把に言うと、韓国、日本、グアムをターゲットにした発射訓練である。要するに、実際の戦争で使われる核兵器、戦術核の攻撃演習を北朝鮮は公然と行っているのだ。

 

尹大統領は、北朝鮮のこのような脅威に対し毅然たる危機意識を持っている。韓国の北朝鮮の核攻撃に対する抑止は、次の三つで成り立っている。

 

1)発射兆候を察知して、ミサイル発射前に移動式を含む発射基地と制御施設を攻撃(キルチェーン)
2)発射後、着弾前に迎撃 する韓国型ミサイル防衛体系(KAMD)
3)着弾したら大規模な報復攻撃を行う韓国版大量報復体系(KMPR)

 

尹氏は3の韓国版大量報復体系(KMPR)を特に重視しており、独自核武装もその延長線上にあると考えているのだ。

 

4月26日に尹大統領がアメリカのバイデン大統領と発表した「ワシントン宣言」の詳細内容を見ると、彼は北朝鮮の核恫喝に対して米韓同盟を強化し、圧倒的な力による抑止力を構築するために必死で努力していることがわかる。

 

――尹大統領のいわゆる「歴史戦争」に対する評価は

 

尹大統領は歴史戦争、すなわち「反日・反韓史観」の克服がなければ韓国は正常化できないという危機感を持っている。

 

8月15日の光復節記念式典で演説を行う尹錫悦大統領 (©大韓民国大統領室)

 

尹氏は6月28日、韓国自由総連盟創立第六九周年記念式典の演説で、「歪曲された歴史認識、無責任な国家観を持つ反国家勢力」を批判した。また、8月15日に行われた光復節記念式典でも、やはり反日・反韓史観を乗り越える必要性を強調、国内の反日左派を「反国家勢力」と規定する勇気ある演説を行った。

 

名指しにはしていないが、これは文在寅氏や李在明氏など、親北反日に固まっている政治家と左派が支配する労組、言論、学会などを指したものだ。光復節の演説で建国75周年と言う重要なポイントは言及しなかったが、彼の演説を聞いて私は一定の希望を感じた。

 

――8月の日韓米首脳会談で「キャンプデービッド原則」が発表された。軍事同盟までに及ぼないが、尹氏は日韓の軍事協力をより一層高める意思を表明した。しかし、日韓の間には未だ未解決の「韓国海軍レーダー照射事件」がある。韓国軍は信頼できるのか

 

2018年12月、日本海で漂流していた北朝鮮の木造船を韓国の海軍イージス艦と海洋警察大型船の二隻が救助した。そこに海上自衛隊の哨戒機が近寄ったが、韓国のイージス艦が哨戒機に向けて攻撃用レーダーを照射したのが事件の発端だ。

 

韓国海軍と沿岸警備隊が北朝鮮のボートを救助している現場の近くを飛行している日本の哨戒機川崎P-1。韓国海軍の駆逐艦「広開土大王」がP-1哨戒機に対し、攻撃を意図する火器管制レーダーを照射した(©YTN News/映像は韓国海洋警察庁提供)

 

実はつい最近、この問題に関して北朝鮮筋から衝撃的な話を聞いた。情報提供者によると、その木造船に乗っていたのは北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記の所在情報を改造スマホを使って米国情報機関に漏らした事件で大規模な粛正が行われていた護衛司令部の幹部ら4人。彼らは公海に出て日本に亡命する計画だったのだ。当時、文政権と金正恩氏との信頼関係は厚く、韓国へ亡命すると強制連行される可能性が高かったため日本を選択したのだ。

 

北朝鮮は結局この4人の身柄拘束に失敗したため、文政権にホットラインを使って捕まえて送還するよう依頼した。文政権は軍艦まで動員して漂流していた船を見つけ出したのだ。4人のうち1人はすでに死亡していた。文政権は残りの3人をなんの調査もせず、3日後に北朝鮮側に引き渡した。この3人は北朝鮮で調査を受けた後で処刑されたという。

 

日米韓首脳会談を前に笑顔を見せる(右から)岸田首相、バイデン米大統領、尹錫悦韓国大統領=8月18日、ワシントン近郊の大統領山荘キャンプデービッド(AP=共同)

 

この事件の真相究明と関係者への処罰がない限り、今も韓国政府と軍の中に、北朝鮮となんらかのコネクションがある勢力が潜んでいるとしか考えられない。そのような状況の下、日韓の軍事協力を維持するのは限界がある。日本政府はこの点をきちんと認識しつつ尹政権と韓国軍との連携を進めていくべきだ。

 

(下)に続く

 

筆者:吉田賢司(ジャーナリスト)

 

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