柔道・井上康生氏「金メダルとパリ五輪で得た偉大な学び」
パリは、歴史的建造物を活用した競技会場をつくり出し、最先端テクノロジーを駆使して記憶に残り、しかも開催費用を抑えることで持続可能な五輪の形を見せてくれたと、井上康生氏は説明する。
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パリ五輪が閉幕してから早や1カ月半が過ぎました。
今回、私は選手時代から数えて7回目のオリンピック参加となり、日本選手団副団長という役員として大会を迎えました。これまでは柔道日本代表の選手あるいは監督、コーチとしての参加でしたから、これまでとはまた別の立場からオリンピックを経験したこととなります。
日本選手団の成績を簡単にご報告しておきます。
勝利への道に向けた協力
日本選手団の総数は、選手・役員あわせて744名。メダル獲得数は、金20、銀12、銅13の合計45個でした。 金メダル獲得数は、米国、中国に続く3位となり、海外で行われたオリンピックでは日本選手団として過去最高成績となりました。
遡れば、私は東京五輪後の2021年12月からJOCパリ五輪対策プロジェクトリーダーとして、各競技団体の皆さんと連携を深め、選手が全力を発揮するための環境整備を行ってきました。
オリンピックが終わった今、パリに向けともに歩んだ皆さんの顔が浮かびます。同時にプロジェクトを通して知ることとなった、それぞれの競技の魅力をもっと多くの人に知ってもらいたいという思いが募っています。
この思いは、パリ五輪期間中、現地でさまざまな競技を観戦する機会を得たことで高まった面もあります。
持続可能な五輪
ご存じのように、今回は会場にグラン・パレ、コンコルド広場、ヴェルサイユ宮殿といった歴史的建造物が積極的に使用されました。
私もこれらの会場で観戦しましたが、外観はもちろん、内観やライティングや装飾は素晴らしく、選手のパフォーマンスによって、より魅了される最先端のテクノロジーを駆使した競技運営と歴史の重みが調和した、素晴らしい競技環境でした。
こうした既存の施設の活用はスポーツの潜在的な魅力を引き出すのと同時に、開催費用を大幅に抑える役割も果たしました。
ほかにも、パリ五輪は地球温暖化や海洋プラスチックごみ問題など環境問題に配慮した大会運営を行い、世界共通の課題に正面から取り組んだことも特徴的でした。
例えば、選手村にはエアコンが設置されなかったため、各国選手団が自前で用意することにもなりましたが(日本もそうです)、そうしたことも含め、パリ五輪は持続可能な大会運営のひとつのあり方を示したと言っていいでしょう。
エンターテインメントの要素
エンターテインメント化するオリンピック。ロス五輪で米国の巻き返しは?
競技面でも、アーバンスポーツと言われるスケートボードやスポーツクライミングなども大変な盛り上がりでした。これらのスポーツの特徴は、する人も観る人も一緒になって「楽しむ」ところにあります。
この、勝敗の追求とは異なる「楽しむ」という要素は、今後、スポーツにますます欠かせないものとなるでしょう。こうした変化を見るにつけ、スポーツのエンターテインメント化はますます進んでいくのだと思います。それはニュースポーツだけではありません。
例えば私の出身競技の柔道の男女混合団体戦では、代表戦を行う階級を、コンピューター制御されたルーレットで決定します。ルーレットは会場の大型モニターに映し出され、決定の瞬間をその場に居合わせたすべての人が共有します。スポーツをする側と観る側が、同時に緊張感を味わうのです。このようなスリリングで刺激的な環境で競技が行われることは今や、当たり前になっています。
次の夏季大会はロサンゼルスで
社会の変化とともにスポーツも変わっていきます。スポーツ振興に携わる一人として、こうした変容を理解し、広い視野を持って行動していかなければいけないと思っています。
さて次回の夏季オリンピックは2028年、米国・ロサンゼルスで開催されます。米国はパリ五輪では40個の金メダルを獲得しましたが、これは中国と同数でした。スポーツ大国の米国が、この結果をどうとらえ、地元開催でどのような巻き返しをはかるのか。一人のスポーツファンとしても、今からとても楽しみです。
筆者:井上康生(柔道家)
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