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【アトリエ談義】(6)江戸のユーモア真骨頂“国芳の戯画”

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歌川国芳が、様々なテーマを描ける絵師であったことは、これまでもお話ししてきました。その中でも「戯画」は、国芳が特に得意にしていた分野と言えるでしょう。

 

例えば幕府を風刺したようなものから、たわいのない絵まで様々ですが、いずれも国芳独特の味わいがあり、当時の浮世絵の中でも群を抜いていました。

 

幕府を風刺したと思われる作品は庶民の喝采を博したので、「反骨の浮世絵師」などと言われることもありますが、当人は版元の注文で描いているので、必ずしも政治的な動機から自発的に描いたとは言い切れません。それが証拠には、お上が「国芳が描いた浅草寺の一ツ屋の絵馬が評判だそうだがぜひ見たい」と言ったと聞くと、大喜びで家族や弟子たちを招き、赤飯で祝ったと言います。そういうと国芳はいかにも単純な人物に見えるかもしれませんが、これが江戸っ子の性格であり、正しく国芳は典型的な江戸っ子なのです。

 

では、国芳の戯画も単純かと言うと、そんなことはありません。日本の戯画の歴史は、「鳥獣戯画」の昔から今に至るまで、延々と続いてきた重要な分野であり、特に幕末は、江戸のユーモア文化が頂点に達しており、その代表的な浮世絵師が国芳といって良いのです。それでは国芳の戯画の中から代表的な作品を紹介することに致しましょう。まずご覧頂くのは「荷宝蔵(にたからぐら)壁のむだ書(がき)」です。

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今でこそ “へたうま” と言う言葉もあり、この様な表現は珍しくはありませんが、江戸時代に突然これまでの浮世絵とは似ても似つかない落書きのような浮世絵が出現したのです。題名のように土蔵の壁に釘で引っかいたような役者の似顔。描かれた張本人は別として、版元がよく国芳のアイデアに同感、出版を許したものです。

 

また、彫師も国芳の版下絵を見て面食らったことでしょう。普段、国芳の見事な版下を見慣れているところに突如現れた落書きのような下手くそな版下。しかし、国芳の狙いを理解した彫師は、見事に国芳の要望に応えたのでした。丁寧にこの絵を見てゆくと、目立たない部分に工夫を凝らしている味わい深い作品です。

 

次は2枚でセットになっている「其面影程能写絵(そのおもかげほとよくうつしえ) おかづり えびにあかがい」と言う面白い作品です。

 

 

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このようなシルエットによる絵は、世界各国にありますが、日本ではすでに幕末に、実景と影が対になっている高度な作品があることに驚かされます。また、影絵の海老に赤貝だけでも十分に面白いため、単独で画集に紹介されていた時代もありましたが、その後、実景の“おかづり”(葦の繁みの中の釣り人)で対になることがわかり、より面白い対の作品として紹介されるようになりました。国芳が最も創作意欲にあふれていた1847年から1852年頃の傑作です。

 

さて、国芳の猫好きはよく知られていますが、決して猫だけが好きだったわけではなく、国芳は、まず人間が好き。そして、あらゆる生きものを愛した心優しい人物だったのです。従って彼の作品には、たくさんの動物が登場します。国芳ほど多くの動物、生きものを書いた浮世絵師は他にはいないのではないでしょうか。国芳の作品の中から気に入った作品を選ぶと動物が描かれていることが多いのを見ても彼が動物好きなのがわかります。

 

今回、最後に見て頂く作品「道外獣(どうげけもの)の雨やどり」。これも動物が主役です。

 

 

雨やどりは古くから好まれた題材でした。雨やどり図は、職業の差別なく、あらゆる階級の人たちが一つ軒下に雨を避けて集まる。それが画家の創作欲を刺激したのでしょう。

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この絵の面白さは、雨宿りをしているのが人間たちではなく、主役は動物たちであること、そして動物たちが、それぞれに相応しい職業を持って描かれているのが愉快ではありませんか。しかも動物たちの着物の柄も彼らに相応しい図になっている。国芳の芸の細やかさに脱帽です。

 

悳俊彦(いさを・としひこ、洋画家・浮世絵研究家)

 

【アトリエ談義】
第1回:歌川国芳:知っておかねばならない浮世絵師
第2回:国芳の風景画と武者絵が高く評価される理由
第3回:浮世絵師・月岡芳年:国芳一門の出世頭
第4回:鳥居清長の絵馬:掘り出し物との出合い
第5回:国芳の描く元気な女達
第6回:江戸のユーモア真骨頂“国芳の戯画”

 

 

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