菅首相肝いりのデジタル庁 9月発足へ最終段階
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菅義偉(すが・よしひで)首相が最重要政策の一つと位置付けるデジタル庁設置が9月に迫る中、準備が最終段階を迎えている。デジタル化の司令塔との位置付けで、他省庁への勧告権など強い権限を持たせる方針で関係者の期待も高い。ただ、新組織が発足しただけでデジタル化が進むわけではない。〝脱後進国〟へ、ようやくスタートラインに立つというのが実際で、政府が目指すデジタル社会の実現には課題が山積している。
システムの標準化
最大の課題の一つとされるのが、デジタル化に向けた社会基盤の整備だ。自治体ごとにシステムが異なることから、各自治体や政府との間でデータ連携ができない現状がある。新型コロナウイルス対策として行われた10万円の特別定額給付金の支給では、自治体職員は名簿などをわざわざプリントアウトして確認するなど、膨大な時間がかかった。政府は令和7年度末には、自治体ごとに異なるシステムを標準化させる方針だ。
この取り組みにより、さまざまな行政手続きがオンラインで完結するようになることが期待されているが、それを使う国民側の準備も必要となる。ここで重要となるのがマイナンバーカードだ。
他人になりすますことが容易なデジタル社会では、本人確認が最も重要となる。マイナンバーカードがあれば、パソコンやスマートフォンにかざすことで、本人確認が可能で、さまざまな行政サービスをオンラインで受けられるようになるが、カードの普及率はいまだ3割。行政がデジタル化されても、カードを持っていなければ結局、役所に出向くことになり、デジタル化の恩恵は届きにくい。
デジタル人材をどう確保するかも課題だ。特に不足が指摘されている高度なデジタル人材は民間でも高額な報酬を用意して、激しい争奪戦が繰り広げられている。
人気の的だが…
公務員という制約から、限られた報酬しか用意できないため、政府はデジタル庁で働いた経験が今後につながるような仕組みを作りだし、民間とデジタル庁を行き来させることで優秀な人材を獲得したい考えだ。
今のところ民間からの注目も高く、1月に行った採用募集では、30人程度の採用枠に1432人が応募。5月に締め切った第2段でも約40人の枠に約500人が応募した。デジタル庁では人員500人のうち120人程度を民間人材とする計画で、今後も採用は続ける方針だ。
ただ、今のような高い人気を維持できるかは、デジタル庁での業務の進め方にかかっている。ある経済官庁の幹部は「長時間残業や政治主導で政策がひっくり返されるような霞が関の働き方を引きずるようだと定着はしないだろう」と話す。
また、公職での経験が今後に生かせるという〝売り〟も、国の機関であるデジタル庁だから成り立つとみられ、地方自治体のデジタル人材をどう確保するかは見通せていない。
監視社会への懸念
個人情報保護の観点からは懸念も根強い。政府はデジタル庁発足に向け、自治体間で異なっていた個人情報保護制度を統一した。個人情報保護のルールは自治体が主体となって条例で整備してきたが内容にばらつきがあり、「2千個問題」などと言われ、情報利活用の観点からは障害となっていた。5月12日に参院本会議で可決・成立したデジタル改革関連法によって制度が統一されることで、災害時の避難者情報などが自治体間で共有しやすくなる。
匿名加工した上で民間にデータを提供できる国の仕組みも、自治体に広げた。行政が持つビッグデータを有効活用し、新たなサービス創出につなげたい考えだが、国会では「監視社会につながる」などと議論が紛糾した。9月のデジタル庁設置に向け、議論が拙速だったとの指摘も根強い。データ利活用と個人情報保護をどう両立させるかについても、国民に向けたさらに丁寧な説明が必要だ。
ほかにも、デジタル技術が苦手な高齢者などをどう支援していくかといった問題や、デジタル化で衰退する産業の業態転換をどう図っていくかも、重要な観点だ。サイバー攻撃のリスクもこれまで以上に増すことになる。
NTTデータ経営研究所の上瀬剛社会システムデザインユニット長も行政のデジタル化に向け「課題は多い」と話す。その上で、「デジタル化が進むかは、実際の住民サービスを提供する自治体が対応できるかが重要なポイントになる」と指摘。自治体ごとの人口規模や特性を踏まえつつ、デジタル化を着実に進めていくことが求められている。
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■デジタル庁 官民のデジタル化を推進するため今年9月1日に新たに創設する組織。内閣直属として首相の下にデジタル相を置き、事務方トップには民間出身を想定する「デジタル監」を配置する。政府の情報システム関連予算を段階的に一括計上し、重要なシステムは自ら整備する。医療や教育、防災のデジタル化の支援や、マイナンバーカードの普及推進役も担う。
筆者:蕎麦谷里志(産経新聞経済本部)
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