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2つの東京五輪 中国選手団を歓迎できない理由

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60年近くも前のこととになるが、1964年の東京五輪の開催時には産経新聞の新人ながら一応は新聞記者であった。五輪当時のことはそれなりに記憶に留めてはいるので、今回と合わせ2つの東京五輪について持論を語ってみたい。

 

先の東京五輪は10月10日から24日までの大会期間だったが、新聞社にとってあれほど中身の凝縮した2週間は今後も他に類を見い出せないだろう。確かに五輪では、東洋の魔女(バレーボール)の金メダルや、体操のチャスラフスカの女神のような演技、鉄人アベベを追走したマラソンの円谷幸吉、それにヘーシンクに敗れた柔道の神永昭夫らにニュースの焦点が当てられたのだが、決してそれだけではなかったのである。

 

1964年10月10日、東京五輪の開幕を伝える産経新聞夕刊

 

大会が始まって1週間もしないうちに米ソ冷戦時代の一方の主役であったソ連の第一書記フルシチョフが突然解任(15日)されたのだった。今にたとえていえば、米中対決に突入した最中に中国の国家主席習近平が突然共産党本部に呼び出されてその地位を剥奪されるようなもので、驚天動地の事態であった。

 

ついで翌16日には中国が高濃縮ウランを使った初の核実験をロプノール湖の実験場で、それも地下ではなく地上で行なったというニュースが飛び込んできた。原爆アレルギーの強い日本に強い衝撃が走ったが、それに止まらず、平和的なスポーツの祭典が日本で行われている時期に東京五輪をボイコットした中国が敢えて断行した核実験だけに、その意図をめぐって憶測が飛び交った。

 

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中国政府は「核大国の核独占を打ち破るためで、先制使用はしない」との声明を出しただけだったが、台湾が中華民国として東京五輪に参加していることへの抗議の意思が含まれていたことは誰も否定できまい。

 

この中国の核実験についてもう少し立ち入って考えてみたい。当時もその後もわれわれ日本人の多くは核実験は中国の嫌がらせ、と受け止めたものの、それ以上には思いが至らなかったように思う。とりわけ、この核実験がロプノール実験場のある新疆ウイグル自治区に住むウイグル人たちの犠牲の上に成り立っていた、ということについてである。

 

中国当局によるウイグル族への過酷な拷問を訴えるギュルバハル・ジャリロバさん

 

中国はこれまで確認されただけでこの実験場で50回前後の核実験を行っているが、その半数は地上での実験であった。それだけに、放射性物質によって夥しい数のウイグル人の犠牲者が出ているのだが、報道の自由も民主主義もない専制国家の中国では一切は闇の中に葬られたままなのである。

 

今日では、われわれもようやく中国が近年新疆ウイグル自治区で行っている強制不妊手術洗脳教育、各種の同化政策などを断片的であるにしても知り得るようになってはいる。欧米では今回のウイグル人権弾圧を「ジェノサイド(民族大量虐殺)」という強い言葉を使って制裁に踏み切る動きが出てきているが、これに先の東京五輪の最中に行った核実験以来30数年間にわたってウイグル人に与えてきた放射能関連死や後遺症を加えるなら、間違いなく「ジェノサイド」以上の、戦後世界最大級の「大ジェノサイド」といえるのではあるまいか。

 

そう考えると、これから始まる東京五輪に参加してくる中国の大選手団を、彼ら自身に罪はないとしても、歓迎する気にはなれない。彼らが国威発揚のために獅子奮迅の活躍をするのを馬鹿馬鹿しいと思いつつ眺めるしかあるまい。

 

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だが、東京五輪ではもはや手が打てないとしても、来年に迫ってきた北京の冬季五輪に対しては、自由陣営は結束して一切の弾圧を断念させる要求を突きつけ、拒否するなら北京五輪を一斉にボイコットするという手を打つべきだと考える。選手のことを思うなら、IOC(国際五輪委)を巻き込んだ形で、G7を中心に代替地での開催も絶対不可能とはいえまい。問題は意志と決断であろう。

 

ネコに鈴を付けるこの役回りは現実的には米国を除いては果たせない。一部に足並みの乱れはあったものの、1979年のソ連によるアフガン侵攻では米国主導で日本などが追従し、モスクワ五輪(1980年)をボイコットしたではないか。

 

私には中国が新疆ウイグルを始め、チベット、内モンゴルに加えている人権弾圧や、香港の自由弾圧と台湾への威嚇はソ連のアフガン侵攻以下の軽いものであるとは到底思えないし、60年近い歳月の隔たりがある2つの東京五輪だが、奇しくも共に新疆ウイグルがわれわれにその不作為を深く静かに咎めていると思えてならないのである。(文中敬称略)

 

筆者:吉田信行(元産経新聞論説委員長)

 

 

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