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北京五輪、外交ボイコットでも足りない

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11月25日、林芳正外務大臣が報道各社のインタビューで「ここ数年、新型コロナの影響もあって、日中間の国民交流というものが非常に低調になってきております。日中国交正常化50周年である来年を契機に、経済・国民交流も後押ししていくことで一致しているところです」と語った。

 

たしかに、来年(2022年)は日中国交正常化50周年の節目に当たる。だが、いくら岸田文雄内閣が「後押し」しようが、「国民交流」は進むまい。中国(武漢)で発生した新型コロナウイルスによる感染拡大で多くの国民が犠牲となり、塗炭の苦しみを強いられたのに、中国政府は、武漢ウイルス研究所に対するウイルス起源の調査にも非協力的である。とても私は積極的に交流する気にはなれない。

 

しかも、最近、中国軍(人民解放軍)とロシア軍が「合同パトロール」と称し、日本周辺での共同軍事行動を活発化させている。

 

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10月18日には、中国海軍とロシア海軍の艦艇合わせて10隻が、津軽海峡を同時に通過して太平洋に出た。そのまま太平洋を南下、伊豆諸島付近から太平洋を西に向けて航行した後、大隅海峡を通って東シナ海に入った。中露両軍による日本1周である。

 

さらに、翌月18日にも、中国海軍の艦艇2隻とロシア海軍の艦艇1隻が相次いで対馬海峡を南下し、日本海から東シナ海に出た。

 

その前日(11月17日)には、中国海軍の測量艦が鹿児島県の屋久島と口永良部島付近の海域で日本の領海に侵入した。同月19日にも、中露の戦略爆撃機4機が、日本海から東シナ海の上空を南下し、尖閣諸島の手前で針路を変え、宮古海峡の上空を抜けて太平洋へ飛行した後、東シナ海へ引き返した。

 

岸信夫防衛大臣の記者会見での言を借りよう。

 

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「両国の戦略爆撃機によるわが国周辺での度重なる軍事演習は、わが国周辺における活動の拡大・活発化を意味するとともに、わが国に対する示威行動を意図したものと考えられます。(中略)わが国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増していることを如実に示すものであり、安全保障上の観点から重大な懸念を有していると言えます。(中略)わが国の防衛力を大幅に強化するため、あらゆる努力を行っていく所存であります」(11月23日・防衛省公式サイト)。

 

林芳正外相(左)と岸田文雄首相

 

林外相、工作活動のターゲットに

 

現役の防衛大臣(旧防衛庁長官を含む)が「わが国の防衛力を大幅に強化するため、あらゆる努力を行っていく」と明言したのは自衛隊史上初である。それも、岸防衛相は「言うだけ番長」ではない。防衛省は今年度補正予算と来年度予算を一体とする「防衛力強化加速化パッケージ」とし、補正予算案の防衛関係費には補正としては過去最大となる7738億円超が計上された。拍手喝采を贈りたい。

 

ただ、中国軍の技術開発も進む。英紙「フィナンシャル・タイムズ」は11月21日、中国が今夏行った実験で、極超音速兵器が滑空中に飛翔体を発射していたと報じた。「これまで極超音速滑空体から飛翔体を発射できる能力を証明した国は中国以外には存在しない」(米紙ウォールストリート・ジャーナル」11月23日)。このニュースが世界に与えた衝撃は大きい。日本にとっても、上記防衛努力を無効化するおそれが高い。

 

やはり日中国交正常化50周年を祝う気分にはなれそうもない。だが、中国当局はしたたかだ。林外相に的を絞り、工作活動を開始した。その一端を、林外相自身が明かしている。11月21日朝、フジテレビ「日曜報道 THE PRIME」で「(王毅外相との)電話会談で、中国側からは訪問のインビテーション(招待)があった」と明かした。BS朝日の報道番組「激論!クロスファイア」にも出演し、「日中外相電話会談でも招請は受けましたので、(訪中の)調整はしていこうと」語った。

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産経新聞の「主張」(社説)を借りよう。「就任直後に、軍事的威嚇をするような国へいそいそと出かけるべきではない。外相訪中には慎重な判断が必要である」

 

中国から「貸与」されている上野動物園のパンダ

 

中国に利用され続ける日本

 

フジ番組でバイデン米大統領が来年の北京冬季五輪に政府高官を派遣しない「外交ボイコット」の検討に言及したことについて問われた林外相は、「日本は日本の立場で物事を考えていきたい」との岸田首相のコメントを引きつつ、「何かをやらないとかやるとかということではなく、我々は我々として考えていく」と具体的な表明を避けた。BS朝日の番組でも、「現時点では何も決まっていない」と述べるに留めた。

 

米国に加え、「ファイブ・アイズ」と呼ばれる機密情報を共有する枠組みを持つ英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドも、外交ボイコットを検討している(英タイムズ紙)。欧州連合(EU)欧州議会も7月、人権状況次第で政府代表らの招待を断るよう加盟国に求める決議を採択した。

 

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さて、日本はどうすべきか。日本政府は「現時点では何も決まっていない」というが、かつて1980年に当時のカーター米大統領がボイコットを宣言したのは、五輪開会の約半年前だった。来年の北京五輪開催まで、あと2カ月。いつまで優柔不断を続けるのか。小田原評定に明け暮れている場合ではあるまい。何のために国際人権問題担当補佐官を置いたのか。

 

日本は米中の間で揺れる船であってはならない。自由民主主義陣営と権威(専制)主義陣営が対立するなか、しっかり前者の側に立ち、後者と対峙すべきである。

 

来年の北京五輪について言えば、米国の元駐日大使から言われるまでもなく、外交ボイコットは当然である。ここで、2008年8月の北京五輪を思い出してみよう。

 

当時の国連事務総長に加え、英チャールズ皇太子も開会式への不参加を表明。フランスの外相も「EUは開会式への不参加を検討すべき」と発言し、実際に英国やカナダ、スペイン等々、世界各国の首脳が開会式への参加を控えたが、日本は当時の福田康夫首相が笑顔で開会式に参加した。当時の天皇陛下、皇族方のご出席要請まで受けていたが、これはさすがに実現させなかった。危ないところだった。

 

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1989年の天安門事件後に開かれたG7サミット(先進国首脳会議)も忘れてならない。対中関係の維持を図る日本が、人権重視の欧米に「1対6」の構図で抵抗。中国への制裁で結束していた西側諸国の足並みを、一人で乱した。当時、中国外相を務めた銭其琛元副首相は後に、「日本は西側の対中制裁の連合戦線の最も弱い輪であり、中国が西側の制裁を打破する際におのずと最もよい突破口となった」と回顧した(『銭其琛回顧録』東洋書院)。

 

けっして同じ轍を踏んではならない。せめて外交ボイコット。いや、それだけでは足りない。選手団も開会式をボイコットすべきだ。なぜなら、五輪開会式では開催国の国家元首が開会宣言をするからだ。かつてはオリンピック憲章にも「選手団は、貴賓席のボックスまえを通過する際、開催国の国家元首ならびにIOC会長に敬礼をする」と明記されていた。

 

独裁国家の国威発揚にも利用されてきたのが五輪開会式だ。日本人選手団を、そんな場所で、私は見たくない。

 

 

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筆者:潮匡人(うしお・まさと)
評論家。昭和35年生まれ。早稲田大法学部卒。旧防衛庁・航空自衛隊入隊後、早大大学院法学研究科博士前期課程修了。長官官房などを経て、3等空佐で退官。帝京大准教授、拓殖大客員教授など歴任。著書多数。漫画「空母いぶきGREAT GAME」にも協力。

 

 

2021年12月5日付産経新聞【The 考】を転載しています

 

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