法律面から「清く楽しく美しい推し活」を著した松下真由美弁護士。
愛用のペンライトも手にしてもらった=東京都中央区
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「尊みがすごい」「沼にハマった」…。オタク言葉の英訳は? 日本のオタク文化を土壌に熱心なファン活動「推し活」が盛り上がるなか、推し活を軸にした学習本が今年相次ぎ出版されている。オタクの語感で世界を広げる「推し活英語本」。ファン心理の暴走を防ぎ、推しに愛される行動を啓発する「推し活法律本」。推し活のなかで教養が身に付くのなら、まさに一石二鳥だ。三日坊主さんも学習意欲が維持できるかも⁉
〝愛される術〟警察も購入
ジャニーズや、坂道。演奏家。劇団員。スポーツ選手。アニメ。皇族まで…。アイドルはじめ多分野のキャラクターが「推し」に祭り上げられる一方、トラブルも目立っている。
昨年9月には、中高年女性に人気の男性歌謡グループ「純烈」のリーダーに、包丁を送り付けたファンクラブ会員の60代女が脅迫容疑で逮捕された。舞台上の演出である推しメンバーへの〝イジリ〟を真に受けて激高し、ゆがんだファン心理を暴走させたようだ。
「良くも悪くも、偶像であるアイドルが親近感を持たせる存在になり、感情移入が激しくなることで、推し活トラブルを増やしている。ネットの炎上や誹謗中傷も、SNS(交流サイト)で直接やりとりできるようになった、現代の負の側面です」
松下真由美弁護士(33)が指摘した。2月発行「清く楽しく美しい推し活」(東京法令出版、1540円)を先輩弁護士と共同執筆。自身も女性アイドルグループのライブに熱心に足を運び、「ストレス発散のすてきな機会を、推しに与えていただいている」と語る。
「楽しいはずの推し活ですが、よかれと思ってしたことでトラブルの当事者になったり、巻き込まれたりする人がいて、何より大切な推しを傷つけている。法律やモラルを知り、推しから愛される術を考えてほしい」と筆を取った。アイドルからの法律相談経験を生かし、「その行為をどう感じるのか? 推される側の思いも示しました」。
取り上げる事例は、ストーカー、名誉毀損(きそん)罪、脅迫罪、業務妨害罪、著作権・肖像権の侵害、不正転売など、恋愛や生活上の普遍的なトラブルと重なる。そのためか「大学生協や図書館などの教育・公的施設、警察からのまとまった注文が多い」(出版元)という。
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「尊みがすごい」の英訳は、「So Damn Precious…」。ののしり言葉の「damn」を前に置くことで、尊い「Precious」の意味が強まるそうだ。自動翻訳ではこうはいかない。
3月発行「世界が広がる 推し活英語」(学研プラス、1500円)は、330単語、477フレーズを収録。ファンレターなど長めの文章も指南する。「勇気を出して海外の同じ推しのファンにメールを送ったら、返事が来た! そんな、うれしい声が編集部に届いています」と担当編集者、澤田未来さん(29)。
自身が外国人に推しの魅力を伝える際に感じた、もどかしさが企画の原点だ。「『I love…』など、ありきたりの表現しか浮かばずにモヤモヤ。自分の熱量を伝え、相手の熱量も受け止め、お互いの距離を縮める。オタクの英語を収集した本を作りたい」
オタク女子グループ「劇団雌猫」に監修を依頼。英語にしたいオタク言葉をアンケートするとともに、英語圏のオタクのSNSから特有の言い回しを抽出して、共通概念を探り、辞典担当者やスラングに精通する米国人らも加わって、2年がかりで史上初の推し活英語本が誕生した。音声はダウンロードできる。
発売1週間で重版がかかり、現在2万3千部。ネット通販のアマゾンではトラベル英会話書籍の1位。14日、3刷が決まった。
「コロナ禍でもオタクに国境なし。推し活英語で世界とつながって」と澤田さん。先日、幸せな終幕を迎えたNHK朝ドラの名言とも重なった。「(英語の勉強は)あなたをどこか 思いもよらない場所まで連れていってくれますよ」
筆者:重松明子(産経新聞)
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2022年4月16日産経ニュース【近ごろ都に流行るもの】を転載しています