上海電力による山口県岩国市のメガソーラー事業買収に反対する看板
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のどかな山村が揺れている。中国に本社を置く上海電力が山口県岩国市のメガソーラー事業を買収し、令和6年の完成を目指して開発を急いでいるためだ。
当初は、日本の企業が経営するはずだった。自然破壊への懸念から、地元在住の13世帯20人は、ただでさえ反対である。
それがいつの間にやら日本企業が買収され、事業者が上海電力の日本法人になっていた。事業は転売が繰り返され、地元の人にとって実態が把握できない「ステルス(隠密)」化していたことも地元の不安に拍車をかけてきた。
岩国市沿岸部には米海兵隊岩国航空基地があり、基地運用への影響も懸念される。発電施設は基地と訓練空域を往復する途上の真下にある。この問題を追及する石本崇市議は「地域の環境問題が安全保障の問題に移った」と語る。
8月中旬、問題のメガソーラー建設現場を訪れた。施設入り口の駐車場には重機が駐車し、工事車両がせわしなく出入りしていた。
買収したのは、上海電力の100%子会社の上海電力日本株式会社だ。昨年9月、都内のファンド運営会社からメガソーラー事業会社の株式を100%取得した。12月の市議会で、石本氏がこの問題を取り上げて明らかになった。
計画によると、117ヘクタールに太陽光パネル約30万枚を設置する。東京ドーム25個分の広さだ。発電出力は75メガワットで、一般家庭約2万2500世帯分の消費に相当する。中国電力に売電し、収入は年約36億円を見込んでいる。
大規模開発には森林法の規定で県知事の開発許可が必要だ。日本企業の許可申請は令和元年8月に許可され、11月に建設を着工、最終的に上海電力に買収された。
山口県森林整備課は「会社が代わるたびに審査している。計画に問題はなく、外資だからといって見直す考えはない」と語る。
地元自治会の広兼輝雄会長(72)は「会社の顔が見えないのは不気味だ。近所に住む私たちが建設現場を見ることすらできないのはおかしい」と話す。
上海電力日本は「岩国の件は取材に応じられない」としている。
政府は2050年までに脱炭素社会の実現を目指し、太陽光発電など再生可能エネルギーの導入促進を図る。これに便乗した外国資本がメガソーラー事業を通じ、日本企業を買収していく。見たくない現状を目の当たりにした。
筆者:佐々木類(産経新聞論説副委員長)
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2022年8月30日付産経新聞【風を読む】を転載しています