記者会見で令和4年版防衛白書を掲げる岸信夫防衛相
=7月22日、東京・市ケ谷の防衛省(市岡豊大撮影)
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防衛省オピニオンリーダーを拝命してから駐屯地を視察、先日、防衛省にて「令和4年版防衛白書」についてレクチャーを受けた。説明を受けて愕然(がくぜん)とした。中国が公表している国防費の増加スピードはこの30年間で約39倍。それに対し、日本の防衛関係費は約20年間で微増。今年度の日本の防衛関係費が5兆円強に対し、中国政府が公表しているだけで国防費は約25兆円。ざっと5倍である。
報告を受けた直後に中国は台湾をグルリと囲むような大規模軍事演習を展開。ロシアによるウクライナへの侵略戦争が勃発してから中国による台湾への軍事介入もリアリティーを帯びてきた。台湾有事は日本の安全保障にも直結している。すぐに陥落すると思われていたウクライナは多大な犠牲を払いながらも善戦し、必死に持ちこたえている。西側諸国からの武器提供による戦力強化も関係しているのだろうが、それを可能にしたのはゼレンスキー大統領の「1ミリたりとも領土を譲らない」という毅然(きぜん)とした姿勢だろう。
以前、自衛隊関係者から「自衛隊は、弾が不足している。仮に海自と中国海軍の軍艦が鉢合わせしても海自の船は戦えるほどの弾を積んでいない。いざとなったらUターンするしかない」と聞かされ、心底驚いた。防衛省でレクチャーを受けた際、このエピソードの真相を尋ねたら「手の内は明かせないが、弾が不足していることは認めざるを得ない」という。
安倍晋三元首相は防衛費の大幅な引き上げを訴えていたが、賛否両論が飛び交っている。この間、ドイツのアクションは早かった。防衛力強化のため、特別基金(約13兆円)を実現させようと、ドイツ基本法を改正する法案を3月に議会に提出し、6月に成立。今後の国防費は対GDP比2%以上を維持していくと表明している。
この手の問題提起をすると「戦争をしたいのか!」との意見が寄せられるが、ウクライナが証明しているように「まずは自分の国は自分たちで守る」という強い覚悟と行動がなければ、いざというときに他国からの助けも得られにくい、と心得た方がいいだろう。
筆者:野口健(アルピニスト)
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2022年8月11日付産経新聞【直球&曲球】を転載しています