Ukiyo-e Isao Toshihiko collection

Image 1: Sono omokage teasobi-zukushi by Utagawa Kuniyoshi (From Isao Collection)

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しばらくご無沙汰していましたが、久しぶりのアトリエ談義です。前回は「疫病との戦い」がテーマでしたが、今回は気分を変えて、歌川国芳と弟子の芳藤の戯画の中から“楽しい浮世絵”をご覧いただきましょう。

 

初めは「其俤手あそびづくし」(団扇絵)です。江戸の人たちは、こんな楽しい団扇を使っていたとは何とも羨ましい限りです。描かれているのは、紙粘土で作られた“張り子”の郷土玩具で、頭や手を軽く ちょんと指で押すと、ゆらゆらと揺れる人形です。そして顔は、当時人気だった役者の顔になっているのですから、当時の人たちには私たち以上に笑えたことでしょう。贅沢禁止令のため発禁となっていた役者絵を、「戯画」で描いて禁令の網をくぐり抜けるとは、まさに国芳の真骨頂です。

 

次に紹介するのは「流光雷づくし」です。怖いのが当たり前の鬼が、それぞれ滑稽な仕草で私たちを笑わせてくれる、これまた楽しい一枚です。

 

Ukiyo-e Isao Toshihiko collection
「流光雷づくし」歌川国芳

 

内容は絵が雄弁に語ってくれているので不要かもしれませんが、少し解説を加えるなら、画面上部、雲の上には雪雨係や稲妻係の鬼。下の方には稲妻干しを作っていたり、雲に彩色をしている鬼がいるかと思うと、臼を引く雷鳴のような音が怖くて耳をふさいでいる雷嫌いの鬼。雷雨に喜ぶ豊年踊りの鬼等々、国芳の筆も快調。その上、題名が「流光雷づくし」の“流行”まで“流光”と洒落ています。又、雷の大切な道具、“太鼓”を使った題名のデザインも面白く、まさに洒落の「オンパレード」の一枚です。

 

次は歌川芳藤の「兎の相撲」です。

 

Ukiyo-e Isao Toshihiko collection
「兎の相撲」歌川芳藤

 

兎たちが力士に成り切って大奮闘。実は明治4年から6年頃、兎を飼って沢山増やし一儲けすることが流行し、兎を描いた版画が多く売り出されました。しかし間も無くバブルが弾けて、それは一次的な流行に終わり、あとには一連の兎絵が残されたという訳なのです。この絵はそれらの内でもなかなかの傑作と云える作品です。また、力士の四股名がそれぞれの兎の特徴などを思わせる四股名になっていて愉快。

 

最後にもう一点、芳藤得意のおもちゃ絵の中から「しん板あんどんうつしかげぼうし」をご覧いただきましょう。

 

Ukiyo-e Isao Toshihiko collection
「しん板あんどんうつしかげぼうし」歌川芳藤

 

本来ならお化けは怖いもの。ところが芳藤描くところのお化けは何とユーモラスで可愛いことでしょう。描かれているお化けは人のお化けだけでなく、動物等のほか、盆栽やヤカンといった庶民の暮らしの中に見られる生活用品などにまで及んでいます。また色彩も赤と緑の2色、それに黒のシルエットだけで最大限の効果をあげているのに驚かされます。

 

当時の人々の心を和ませていたこの様な楽しい浮世絵は、現代の私たちにとっても一服の清涼剤の様な存在ではないかと思います。

 

筆者:悳俊彦(洋画家・浮世絵研究家)

 

【アトリエ談義】シリーズ

 

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