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中国はやはり、異形の国である。映画界最高の栄誉とされる米アカデミー賞で、そのことを強く再認識させられた。
今年の同賞では米国の車上生活者を詩情豊かに描いた「ノマドランド」が作品賞、監督賞、主演女優賞の3冠に輝いた。監督のクロエ・ジャオ氏は中国出身で、白人以外の女性監督の受賞は史上初だ。
だがこの快挙は、母国で報じられなかった。インターネットなどでも検索不能となっている。ここまで露骨な報道、表現の自由の制限は異様である。
ジャオ氏は北京市の出身で、英国の高校に留学後、米国の大学、大学院で映画制作を学んだ。今年2月、ジャオ氏が米ゴールデングローブ賞の監督賞を受賞した際には中国メディアも快挙を称賛したが、その後に同氏が2013年、海外メディアの取材に「中国での生活は嘘であふれていた」と発言したことが問題視された。
4月23日に中国で公開予定だった「ノマドランド」は上映されないままで、ネット上で中国語のタイトル「無依之地」を検索すると「関連法律や法規、政策により表示されない」との文字が出て、投稿は閲覧できない。
対照的に台湾各紙はジャオ氏がオスカー像を手にする写真を掲げて「アジア女性として初」「前代未聞だ」などとたたえた。
今年のアカデミー賞には香港の大規模デモを描いたドキュメンタリー映画「ドゥ・ノット・スプリット」も候補作品に選ばれたが、香港では約50年ぶりに同賞の授賞式が放送されなかった。
不都合なものは、自国民の目に触れさせない。ウイグル人への人権侵害に関する海外での報道なども同様である。
数年前からは「習近平国家主席に雰囲気が似ている」として揶揄(やゆ)の対象となった「くまのプーさん」も、画像や中国語名の「維尼熊」が監視対象となっている。
フィギュアスケートの五輪金メダリスト、羽生結弦のプーさん好きは有名で、「キス&クライ」では大きなぬいぐるみを同席させ、世界中の彼のファンの必携アイテムともなっている。
来年2月には北京で冬季五輪が開催される。中国当局は、羽生やファンに「プーさん」の持ち込みを認めるだろうか。それは中国の自由度を測る、新たな物差しとなるかもしれない。
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2021年4月30日付産経新聞【主張】を転載しています