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中国の全国人民代表大会(全人代)が3月5日、北京で開幕した。
李克強首相は政府活動報告で、「突如として発生した新型コロナウイルス感染症対策で戦略的な成果を上げ、世界で経済のプラス成長を実現した唯一の主要経済国になった」と述べた。
続いて李氏は「世界が注目して歴史に刻まれる結果を出した」とも語った。
耳を疑うとはこのことだ。
湖北省武漢市で新型コロナウイルスが発生した際、習近平政権はその事実を把握しても隠蔽(いんぺい)に走り初動措置を誤った。この結果、世界へウイルスが急速に拡大したのが事実である。250万以上もの人が死んでいる。
にもかかわらず、李氏の報告からは深刻な問題への責任や謝罪は微塵(みじん)も感じられない。
報告は、国内総生産(GDP)実質成長率について、2021年に「6・0%以上」とする数値目標を2年ぶりに定めた。コロナ禍の経済混乱から世界最速でV字型回復を果たすとのアピールだ。国威発揚の狙いがあろう。第14次5カ年計画案では、「合理的な範囲を維持する」とし、具体的な数値は設定しなかった。
7月には中国共産党創設100年を迎える。李氏は「中華民族の偉大な復興という中国の夢を実現するための奮闘」を呼びかけたが、それが人権弾圧を糊塗(こと)するものであってはならない。
国際社会は新疆ウイグル自治区での人権侵害や弾圧を懸念しているが、李氏は「党の民族政策を貫徹し、宗教が社会主義社会に適応するよう導く」と述べた。社会主義の名の下に、ウイグル人ら少数民族の固有の文化や宗教を抑圧するもので看過できない。米国やカナダなどが相次いでウイグル人弾圧を「ジェノサイド(民族大量虐殺)」と批判している。
国防予算案も発表され、2021年予算案で国防費は前年比6・8%増の1兆3553億4300万元(約22兆6千億円)で、20年予算は6・6%増だった。
李氏は報告で「習近平強軍思想を深く貫徹し、国家の主権・安全・発展の利益の堅守のための戦略能力を高める」と述べた。軍事力による南シナ海への海洋進出や台湾への威嚇、核戦力の増強を続ける意思を鮮明にしたことを意味する。「強軍思想」の暴走を国際社会は阻止せねばならない。
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2021年3月6日付産経新聞【主張】を転載しています