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米・ファイザー社の新型コロナウイルスのワクチンに続き、米・モデルナ社などのワクチンが5月21日、特例承認された。接種を加速してもらいたい。
ただ、これで安堵(あんど)することはできない。国民の命と健康を守る切り札を海外に依存している状況は変わらないからだ。国産ワクチンの開発を急がねばならない。
パンデミック(世界的大流行)に直面し、各国は自国優先主義に陥り、ワクチンの囲い込みに走った。欧州の輸出規制を受けて、日本のワクチン入手は遅れた。都道府県と市区町村に提供する明確な日程を示せず、接種準備が滞った。危機的な事態だ。
しかも、ワクチンが安定的に供給される確証は今後もない。さらに、日本から新たな変異株が生じても、対応するワクチンが準備されるとは限らないのである。
ワクチンを戦略物資と捉え、開発できる体制を整えておくことが必要である。
日本でも、製薬ベンチャー「アンジェス」をはじめ、塩野義製薬や第一三共、KMバイオロジクスなどがワクチン開発に当たっている。年内の供給を目指す企業もある。全力を挙げてもらいたい。
実用化は一歩遅れたが、遅すぎることはない。流行の沈静化には何度かのワクチン接種が必要になろう。効果が高く、安全で、扱いやすいワクチンができれば、遅れは十分に挽回できる。
移送や運搬、接種が容易になれば、途上国で利用できる人が増える。ワクチン外交を繰り広げる中国やロシアを牽制(けんせい)することにもなるだろう。
課題は最終段階となる臨床試験の実施である。先行するワクチンは数万人を対象に生理食塩水(偽薬)と比較して効果を測っている。だが、効果の高いワクチンが実用化された中では、試験の参加者を多く集めることは難しい。
規制当局は効果と安全性を第一にしつつ、合理的で簡易な評価手法をメーカーとよく協議してもらいたい。先行する同種のワクチンと、血中の抗体価などを比較することで臨床試験の一部を代替できる可能性もある。
多くの人がワクチンの重要性を痛感している今はワクチンを開発する環境を整える好機である。インド太平洋地域の国々に使ってもらうことも視野に、包括的なワクチン政策を考えるべきだ。
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2021年5月24日付産経新聞【主張】を転載しています