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バイデン米政権が外交や国防の政策指針である国家安全保障戦略を公表した。「ポスト冷戦期は終わった」とし、次の時代を形成する大国間競争で民主主義の価値観を共有する国々と連携し、権威主義国に勝ち抜くという基本理念を示した。
中国に関しては、「国際秩序を変える意図を持ち、その能力を備える唯一の競争相手」「米国にとって最も重大な地政学的試練」と強調した。いずれも妥当な認識である。
特に着目したいのは、ウクライナを侵略するロシアによる核使用の脅しなどを踏まえ、米国の核戦力の近代化と同盟諸国に対する拡大抑止の強化をうたった点だ。
ちょうど60年前の1962年10月に起こったキューバ危機で、米国と旧ソ連は全面核戦争の瀬戸際に立たされた。米国は長らく、ソ連・ロシアの戦略核に対する抑止を想定してきたが、中国が台頭した今は60年前と全く異なる。
安保戦略で、中国が核軍拡を続ければ米国は2030年までに中露という「2つの主要核保有国」の抑止を迫られる事態に直面すると指摘したのはもっともだ。
これは日本を含む国際社会が認識すべき厳しい現実でもある。中露の核に対する抑止力強化は、今や米国および同盟諸国にとって喫緊の「最優先事項」である。
安保戦略は、現下の情勢を念頭に「ロシアや他の国が核兵器を使用したり、使うと脅したりして目的を達することを許さない」と断じた。中露はもちろん、核保有を誇示する北朝鮮なども牽制(けんせい)するものだ。台湾有事でも中国の核使用が懸念される。こうした現状を看過することはできない。
ただし、バイデン大統領の持論である「核兵器の役割低下」が盛り込まれ、トランプ前政権の安保戦略で明記されたミサイル防衛への言及もなかったことには懸念も残る。米国が核戦略で現実路線を定着させたいのならば、戦略実現の明確な道筋を示し、中露との競争で世界を主導すべきだ。
問題は、これに日本がどう応えるかである。岸田文雄首相が訴える「核兵器のない世界」は究極の理想であり、唱えるだけでは脅威はなくならない。最も重視すべきは、中露や北朝鮮に囲まれた日本が核の惨禍に見舞われないことだ。米国の「核の傘」に頼るだけではなく、自らの抑止力を高める一段の取り組みを求めたい。
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2022年10月26日付産経新聞【主張】を転載しています