~~
ロシアのプーチン政権によるウクライナ侵攻後に強まった言論・人権弾圧が西側メディアに及んだ。米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)のモスクワ特派員が3月末、露治安機関の連邦保安局(FSB)に「スパイ容疑」で逮捕された。
ロシアで正式に取材活動が認められた米国人記者に対する恣意(しい)的で不当な逮捕であり、断じて容認できない。
バイデン米大統領が記者団の取材を受けて「釈放せよ」と語ったのは当然である。ブリンケン国務長官もラブロフ露外相との電話会談で「重大な懸念」を表明し、即時釈放を要求した。
FSBは、この記者がロシア中部・エカテリンブルクで「米政府の指示に従い、軍需産業の活動に関する機密情報を収集していた」などと主張している。
これに対しWSJは声明で「容疑を断固として否定する」と反発し、「献身的で信頼できる記者の即時釈放」を訴えた。逮捕されたエワン・ゲルシュコビチ記者は両親が旧ソ連出身で米国籍を持つ。ロシア語が流暢(りゅうちょう)だという。
プーチン政権は昨年2月のウクライナ侵攻直後、軍事に関する報道や情報発信を「虚偽」とみなした場合、記者らに「最大15年の禁錮刑」を科す―などとする改正刑法を発布した。すでに同政権に批判的な国内メディアの全てが閉鎖されたり、海外に退避しての活動を余儀なくされたりしている。
ゲルシュコビチ氏がスパイ容疑で有罪になると「最大20年の禁錮刑の可能性がある」(インタファクス通信)とされる。
虚偽の容疑で重罪に問われるなど絶対にあってはならない。
ロシア駐在の米メディア特派員がスパイ名目で拘束されたのは東西冷戦後、初めてだ。米政府は米国民がロシアへの渡航をとりやめるほか、露国内の米国民には速やかに出国するよう求めている。
プーチン大統領は同記者逮捕の翌日、ウクライナ支援を強める欧米への敵意を露(あら)わにした「露外交政策の概念」を発表した。この中で「米欧はロシアの弱体化政策を展開し、ウクライナを支配下に置こうとした。ロシアを追い込み、対ウクライナ戦に踏み切らせたのは米欧側だ」と記している。
侵略を正当化する言い掛かりである。西側は記者の早期解放に向けて対露圧力を強めるべきだ。
◇
2023年4月8日付産経新聞【主張】を転載しています