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岸田文雄首相が10月8日、就任後初めての所信表明演説を行った。岸田政治の針路を、丁寧に語ろうとした姿勢は評価できる。
新型コロナウイルス対応と、中間層拡大を目指す「新しい資本主義」の実現、国民を守り抜く外交・安全保障―を政策の3本柱に置いた。
コロナの感染が落ち着いている今のうちに、病床や医療人材の確保、在宅療養者への対策を徹底するとしたのは妥当だ。ワクチン接種や経口治療薬の準備も含め、選挙期間中といえども対策を急いでもらいたい。
従来のコロナ対応で何が危機管理のボトルネック(進行の妨げ)だったかを検証すると表明した。岸田首相が関係閣僚に指示した、コロナ対応の全体像の提示と連動させる必要がある。
新しい資本主義をめぐって、成長戦略と分配戦略を「車の両輪」と位置づけた。その問題意識は正しいが、肝心なのは政策の具体化である。経済対策にとどまらず、労働分配率の向上や看護、介護、保育の現場で働く人たちの収入増などを確実に実現してほしい。
外交・安全保障は日米同盟を基軸としつつ、領土・領海・領空と国民の生命財産を「断固として守り抜く」と語った。自由、民主主義など普遍的価値を「守り抜く覚悟」を表明した。同盟国・同志国と連携して「自由で開かれたインド太平洋」の推進を約束した。
安倍晋三、菅義偉両政権の外交・安全保障政策の継承を鮮明にしたもので、地域の平和と安定に寄与する。さらに岸田首相は、国家安全保障戦略と防衛大綱、中期防衛力整備計画を改定し、防衛力の強化や経済安全保障に取り組むと語った。それには防衛費の思い切った増額が必要である。
物足りないのは、演説で北朝鮮の核・ミサイルや拉致問題を取り上げた一方で、中国の覇権主義的行動を問題視する言葉を発しなかった点だ。これは歴代首相の演説と同様の対応だが、中国に気兼ねしている時代ではもはやない。首相の語る外交・安全保障政策の大部分は中国への備えである。分かりやすい説明をしてほしい。
中国は尖閣諸島(沖縄県)を狙い、台湾への軍事的威嚇を重ね、南シナ海では国際法無視の人工島の軍事拠点化を進めている。日本の首相として、これらへの明確な「ノー」を代表質問などの機会に発信するのは当然だ。
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2021年10月9日付産経新聞【主張】を転載しています