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ロシアが7月に国連などと交わしたウクライナ産穀物の黒海経由の輸出再開合意について、無期限の履行停止を表明した。露海軍の黒海艦隊がウクライナ軍の攻撃を受けたためという。
世界的な食料危機の最大の要因はロシアによるウクライナ侵略にある。露軍が黒海における安全な航行を保障しなければ、農業大国ウクライナは、海路で穀物を搬出することが困難になる。
合意は、穀物供給を同国に依存する中東、アフリカ諸国を飢餓から救うため、ロシア側に航路の安全確保などを求めたものだ。
一方的な停止表明は食料を駆け引きの材料とする恫(どう)喝(かつ)であり、絶対に許されない。
米欧に揺さぶりをかける思惑だろうが、最も大きな打撃を受けるのは、ロシアの侵略とは関係のない国々の貧困層である。
ロシアは、軍事援助をテコにアフリカ諸国への浸透を図っているが、これは、国連などで数少ない自国への支持を集めることが目的だ。食料問題などお構いなしなのがその実態である。
7月の合意は、国連とトルコの仲介、国際世論の強い後押しで曲折の末、交わされた。
合意履行の停止について、ロシアには再考を求めたい。同時に、合意そのものがロシアの一存で簡単に破られる危ういものであるとの認識が必要だ。
そもそも、黒海艦隊がクリミア半島南部のセバストポリ軍港周辺で攻撃されたことは、ロシアが合意の履行を停止させる理由にはなり得ない。
ロシアから欧州に天然ガスを供給する海底ガスパイプラインが破壊された大規模なガス漏れについて、ロシアと米欧は互いのせいだと批判している。
だが、ロシアの言動は偽りにまみれており、信用できない。海底ケーブルなどを攻撃対象にして、米欧に責任転嫁してくる恐れもある。警戒が必要だ。
ロシアは、クリミアは自国領―などといった虚構を前提に無謀な侵略を進めている。そうである以上、すべての振る舞いが「茶番」ととらえられて仕方あるまい。
食料危機は今も深刻な事態にある。国際社会はロシアの非人道的な恫喝を強く批判し、ウクライナや国連、トルコによる円滑な穀物輸出再開の努力を後押ししなければならない。
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2022年11月2日付産経新聞【主張】を転載しています