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国連が主導する温室効果ガス(GHG)の排出削減は各国のエネルギー安全保障と不可分だ。
これらの課題に深く関わる国際協議が4月、先進7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合で行われた。
開催前には国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が世界の国々にGHG削減の強化を求める報告書を発表し、議長国の日本は難しいかじ取りを迫られた。
だが、共同議長を務めた西村康稔経済産業相ら日本側の調整力で極論に陥らず、穏当な共同声明が採択されたことを評価したい。
その代表例が石炭火力発電への廃止圧力の緩和である。石炭火力を巡ってはG7のうち、欧州など6カ国が共同声明に廃止時期を盛り込むよう求めていたが、日本は段階的廃止を主張して、時期の明示を回避した。
この対応は2030年度の時点での石炭火力の電源比率を約20%と見込む日本のエネルギー計画にとって整合的であるだけでなく、石炭火力に頼らざるを得ない途上国にとっても電力安定供給の確保につながるものだ。
影響力の強いG7が拙速に石炭火力の廃止に進めば、日本の高効率火力発電の技術導入で、途上国が二酸化炭素を減らす道も狭められるところだった。日本が計画するアンモニアの混焼も今後、注目を集めることになるだろう。
今回の会合では、IPCCが示した世界のGHG排出量を「35年までに19年比で60%削減する」ことの重要性を認め、天然ガスも段階的廃止を目指す化石燃料の一種に位置付けられた。
現在、日本の主力電源となっているガス火力発電にも徐々に包囲網が張り巡らされる雲行きだ。
その一方で原子力発電には順風が吹いた。日本など「原子力エネルギーの使用を選択する国々にとっては、脱炭素化の有効な手段」であると認められた。
岸田文雄政権には、安定電源である原発の再稼働に一段と力を入れてもらいたい。原発の活用が進まない中、電気代は高騰し、日本の21年度のGHG排出量も8年ぶりの増加に転じてしまった。
会合で示されたように、脱炭素化の道筋は多様だ。太陽光発電などの適地に乏しい日本は、原子力の復活と高効率石炭火力の活用を主軸に、世界共通のゴールを目指す必要がある。
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2023年5月1日付産経新聞【主張】を転載しています