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国家権力が選手の自由と人権を抑圧し続けるかぎり、中国にスポーツを語る資格はない。
中国女子テニスのトップ選手、彭帥さんが元副首相に性的関係を強要されたと訴えた後、安否が懸念されている。女子テニス協会(WTA)が12月1日、中国と香港での大会を全て中止すると発表したのは気骨ある判断であり、全面的に支持したい。
国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が彭帥さんの無事を確認したというが、当局の監視下に置かれているとの疑念は依然として拭えない。
WTAのサイモン最高経営責任者(CEO)は声明で「中国の指導部は非常に深刻な問題に、信頼できる方法で対処していない」と習近平政権を非難した。スポーツ界にとって、選手はかけがえのない財産だ。言論や身体の自由を含め、民主主義の価値観と相いれぬ国での大会開催は、選手らを危険にさらすことになる。
IOCの対応には、「中国のプロパガンダに加担した」との批判も寄せられている。当然だろう。北京冬季五輪の開催を最優先する思惑が見え透いており、平和の祭典の開催意義を損なうものだ。
習政権は、新疆ウイグル自治区や香港などでの人権弾圧を恥じるそぶりもない。五輪のホスト国としての適性を、世界は改めて問い直すべきである。
日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長は、WTAの対応を「正しい判断だと思う」と支持する一方で、北京五輪への選手派遣について「揺るぎない」とも述べた。日本選手団の権利は大事だが、いま最優先で守らなければならないのは、中国政府に脅かされているスポーツ界の基盤ではないのか。山下氏が優先順位を理解しているのか大いに疑問だ。
米紙によると、WTAは2022年に中国で9大会の開催を予定しているという。今回の中止発表は、収入面での打撃を覚悟の上での決断だろう。
サイモン氏は「経済的な影響があろうと、世界中のリーダーが彭帥選手や全ての女性に正義がもたらされるよう、声を上げ続けることを願う」とも訴えた。
政治のリーダーだけに向けられた言葉ではない。日本スポーツ界のトップとして、山下氏には中国政府の安易な幕引きを許さない責任もあるはずだ。
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2021年12月4日付産経新聞【主張】を転載しています