リニューアルで「宇宙旅行」の気分を味わえるようになった
大阪市立科学館のプラネタリウム(同館提供)
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室内にいながら星空へと誘ってくれるプラネタリウム。今年は日本に登場して85年、そして来年は発明から100年の節目を迎える。実は世界で2番目のプラネタリウム大国でもある日本。コロナ禍のなかでも工夫をこらした施設や新サービスが登場している。新世紀を迎えるプラネタリウム、その世界を見てみよう。
生の解説
真新しい座席に体を預け天井を仰ぐと、暗闇に無数の星が浮かび上がった。画面が動き、宇宙へ飛び出す。目の前には金星。「雲に覆われているのが分かりますか」。学芸員が解説する。その後、土星の輪をくぐり抜けるなど臨場感のある映像が生解説とともに続いた。
ここは大阪市立科学館(北区)のプラネタリウム。前身の「大阪市立電気科学館」は85年前の昭和12年に、日本初のプラネタリウムを設置したという由緒ある施設だ。今春「宇宙へ漕ぎ出せるプラネタリウム」をコンセプトに3年前に続いて大規模改修された。
直径26・5メートルの巨大なドームに、解像度を以前の4倍に高めた6Kの映像を描く。目玉はシミュレーションソフトを活用した「宇宙旅行」。どの惑星を訪れるかや、訪れた惑星に近づいて周回するなど独自のプログラムも作成可能だ。
座席数は新型コロナの感染予防や安全面を考慮して約50席減らした一方で、一席あたりのスペースを前後130センチ、左右55センチと飛行機のビジネスクラスなみに広げた。
「限られた予算の中で無駄なものは省き、必要なものにはお金をかけた。プラネタリウムをわかっている僕らにしか見極められない」。30年以上同館のプラネタリウムに携わる渡部義弥学芸員は自信をみせる。
日本初
大阪市立電気科学館に登場した日本初のプラネタリウムはドイツ製で、約9千個の恒星や太陽系の惑星などを映し出した。
電気科学館は、同市電気局が電気供給事業10周年を記念して開設。当初の計画は美容室や大衆食堂、スケートリンクなど娯楽施設の様相だった。これに対し「日本の天文教育に必要」と京都大の研究者らが中心となってプラネタリウムの導入を市電気局に働きかけ、当時の局長が工事途中で設置を決断したという。
「単にプラネタリウムの機械を入れるだけでなく、演出や使い方も調査しようと京大の学生をヨーロッパへ派遣した」(渡部さん)という熱の入れようだった。現在プラネタリウムは世界に1500カ所以上あるとされるが、当時は発明したドイツや米国などに計20カ所程度だったといい、アジア圏でいち早く取り入れた。
こうして屋上に直径18メートルのドームを備えるプラネタリウムが完成。費用は46万円と、当時としては小学校2~3校の建設費に相当する巨額な投資だった。
日本初の施設には、各地から天体の専門家が動員された。戦時中は空襲で建物も被害を受けたが、奇跡的にプラネタリウムは生き残り、投影機は市立科学館に引き継がれる平成元年まで50年以上活躍した。現在は同館で展示されている。
なぜ多い
「日本プラネタリウム協議会」(JPA)によると、国内で稼働中のプラネタリウム館は約300。米に次ぐ2番目の多さという。なぜこんなにも多いのか。
JPAのデータによると、開設時期は1970~90年代前半が最も多く、閉館も含め過去につくられた全455施設のうち約65%が集中している。
小・中学校の理科教師らから設置を望む声が上がり「わが町にも」と広まっていったとされる。国内にプラネタリウムのメーカーがあったことも後押ししたほか、児童館など子供のための施設整備も盛んになっていた時期で、市民の理解が得やすかったことなどがあるようだ。実際、施設の9割以上は公立だ。
最近では投影機は光学式のほか、デジタル式も普及し、さまざまなパターンの映像が映し出せるようになった。施設を象徴するドームの形状は水平型や傾斜型が中心。座席配列は中心に向かう「同心円」や映画館のような「一方向」などがあり、リニューアルで設備を変更する施設も相次ぐ。
プラ寝た
ハード面だけでなく、ソフト面での取り組みも強化されている。
明石市立天文科学館(兵庫県)が発案した勤労感謝の日(11月23日)の特別企画「熟睡プラ寝たリウム」は、文字通りプラネタリウムで寝てもらおうという企画。枕やパジャマの持ち込みOK、アロマの香りとBGMだけの星空観賞など、心地よい眠りを誘うプログラムだ。
他のプラネタリウム施設にも同様の催しの実施を呼びかけ、賛同する複数の施設で開催されるようになった。令和2年は全国の48施設が参加し、3365人が熟睡できるプラネタリウムを堪能した。
また、赤ちゃんを対象にした「0歳からのプラネタリウム」や聴覚障害者のための「字幕つきプラネタリウム」など、幅広い利用を促そうと、各地で趣向を凝らした催しが開かれている。プラネタリウムはエンターテインメント性も兼ね備え、進化を続けている。
筆者:北村博子(産経新聞)
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2022年4月14日産経ニュース【新世紀プラネタリウム】を転載しています