ラグビーの南半球最強クラブを争う国際リーグ「スーパーラグビー(SR)」に日本から参戦してきたサンウルブズが8月8日、東京・秩父宮ラグビー場で「メモリアルセレモニー」と称したスポンサー、サポーターらとの交流会を開催した。北半球から唯一のSR参戦チームとして2016年に誕生したサンウルブズは、昨秋のワールドカップで史上初のベスト8入りを果たした日本代表の強化に大きく貢献した。しかしSRを主催するSANZAARは当初の規約どおり、今季終了後、サンウルブズのリーグ除外を決定。新型コロナウィルスの影響で今季SRは7節を終えた時点で中止されたことで、サンウルブズの活動も実質上、終止符が打たれた。日本ラグビーはコロナ後、どんな未来を描いているのか。
日本代表主将のリーチ・マイケル、5月に現役引退を表明した大野均ら新旧の選手、スタッフ27人が集まった“お別れ”イベントだった。渡瀬裕司CEOの「なんとかサンウルブズが世界にもう一回チャレンジする機会が来ることを願ってやみません」という挨拶が現状を物語っていた。存続が望まれながら、具体的な方策を提示できないのだ。
サンウルブズは、W杯に向けて日本代表の強化を目的に日本ラグビー協会主導で生み出された日本初のプロチームだ。ニュージーランド、豪州、南アフリカという強豪国の代表選手が居並ぶSRに参戦することで、日本代表に不足していた強豪国との対戦経験を増やすことが最大の目的だった。その成果は、参入4シーズン目に開催された昨秋のW杯での成績を見れば明らかだ。
SANZAAR側は、残留条件として対戦相手の日本遠征などで生じる経費や放映権料の負担として10億円の支払いを求めたが、サンウルブズ側が資金を準備できなかったことで、当初の契約どおり、除外に踏み切った。
SR離脱がもたらす強化面での損失に加えて、もう一点忘れてはならないのがサンウルブズを支えてきたファンの存在だ。サンウルブズのSR通算成績は9勝1分け58敗だったが、苦闘とは対照的に日本開催では毎試合1万人を超えるほどの観衆を集めていた。スタンドは従来の企業、大学関係者が大半というものから、まるで音楽フェスに参加するような若い男女や家族連れが集まる華やいだものに変わった。勝敗だけではなく、試合自体を楽しもうという雰囲気がスタンドに満ちていた。チームがこのまま消滅したとしても、この新しいファン層をラグビーに繋ぎとめることが日本ラグビーのミッションになる。
一方で、昨秋のW杯での躍進のおかげで、日本代表が強豪国との試合数を増やせる可能性は高まっている。欧州で開催が準備されている8カ国対抗への参戦が報じられるほか、日本側でもサンウルブズの再編成や、このチームに代わる代表強化の環境整備を模索している。再編が濃厚なSRへの再合流、トップリーグとSR上位国が対戦するクロスボーダー大会への参入といった案も各国間で話し合われている。さらには、欧州クラブとの交流という選択肢も浮上し、早くもコロナ禍後をにらんだ駆け引きが始まっている。
様々なプランが検討される中で忘れてはいけないのは、新たな国際大会、国際試合が本当に日本代表の強化に役立つのかだ。南半球の強豪チームと年間15試合前後を戦うSRと同等か、それ以上の成果が期待できなければ、新規大会への参戦も意味はない。すべては2023年W杯で日本代表が目標に掲げるベスト4以上に勝ち上がるためなのだ。
筆者:吉田宏