JR新大久保駅(東京)でホームから落ちた日本人を助けようとした韓国人留学生、李秀賢(イ・スヒョン)さん=当時(26)=が犠牲になった事故から26日で20年。勇気ある行動は日韓両国の人々の心を打ち、多くの弔慰金が寄せられた。李さんの両親は「日本と韓国の懸け橋になりたい」と話していた息子の意志を引き継ぎ、弔慰金を基にした奨学会を設立。これまで、アジアの18カ国・地域から来日した留学生計998人を支援してきた。李さんの尊い志は色あせることなく、友好の輪は今も広がりを見せている。
「息子に恥ずかしくない母でいようと思いました。息子に『お母さん、頑張っているよ』と伝えたい」
母の辛潤賛(シン・ユンチャン)さんは事故から20年を機に行われた20日のオンライン会見で、そう呼びかけた。日本から寄せられた手紙は2千通を超え、「たくさんの方に励ましていただき、感謝の気持ちで少しずつ心が癒やされていった」と述べた。
李さんは韓国の名門・高麗大の貿易学科在学中、地域研究の授業で日本に関心を持ち、平成11年に来日。「日本と関係のある仕事について韓日交流に尽くしたい」との夢を抱き、赤門会日本語学校で学んだ。
事故後、両親には多くの弔慰金や励ましの手紙が寄せられ、翌年、弔慰金を基に「LSHアジア奨学会」を設立。支援する奨学生は今年中に1千人、累計1億円を超える見込みだ。
赤門会日本語学校の新井時賛理事長(71)によると、「李さんの行動に感動した」「両親の人柄にひかれた」などの理由で今も寄付をする人は後を絶たず、「多くの人の善意で続いている」と話す。
辛さんは各国から日本に留学する奨学生を「息子や娘のような存在」と話す。毎年、奨学会の授与式で握手をし、「将来どんな活躍をするんだろう」と成長を見守っているという。
昨年、奨学生に選ばれた赤門会日本語学校に通う韓国人留学生、呉承勲(オ・スンフン)さん(24)は「李さんの行動は本当に勇気があること。奨学生に選ばれたことで自信がついた。日本でもっと勉強して活躍したい」と話した。
これまでの献花は辛さんを招いて赤門会と奨学会で行ってきたが、今年は新宿韓国商人連合会と新大久保商店街振興組合などが協力し、新大久保で初めて追悼式を開催された。辛さんはビデオメッセージを寄せ、「20年間、温かい愛情を注いでくれた皆さまのおかげで悲しみを乗り越えることができた」と感謝の言葉を述べた。
息子の思いを継いで広がった交流の絆が今後も続いてほしいと願う辛さんは「私も命ある限り、息子に代わって交流を続けていきたい」と語った。
筆者:大渡美咲(産経新聞)
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■JR新大久保駅人身事故 平成13年1月26日夜、東京都新宿区のJR新大久保駅で、ホームから転落した男性を助けようとしたカメラマンの関根史郎さん=当時(47)=と韓国籍で日本語学校生の李秀賢さん=同(26)=が線路に降りて救助にあたったが、3人とも電車にはねられて死亡した。2人の勇気ある行動は感動を呼び、日韓交流が活性化した。事故を契機にホームドアや転落防止柵、非常停止ボタン、ホーム下待避スペースの設置など、駅ホームの安全対策も進んだ。