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バイデン米政権は10月、外交・安全保障政策の指針となる「国家安全保障戦略」と「国家防衛戦略」、核戦略の基本方針を示す「核態勢の見直し」を相次いで発表した。
一連の戦略文書は、中国による核戦力を含む軍備拡大と、インド太平洋地域および国際社会での威圧的行動を「米国の安全保障に対する最も包括的で深刻な挑戦」と見なし、同盟諸国と連携して対処していく立場を打ち出した。中国の脅威に直接さらされる日本として、その点は心強い。
だが、果たして米政権の外交・安保戦略は、米国への対抗姿勢をむき出しにする中国を押さえ込む処方箋となり得るのだろうか。
日本を含む同盟諸国の期待とは裏腹に、実は米国の安保関係者の間では重大な懸念が広がっている。第二次大戦後、「世界最強」の呼び名をほしいままにしてきた米軍が弱体化し、「このままでは中国に負ける」という冷徹な現実を突きつけられているからだ。
米政権の戦略発表と相前後して北京で開かれた中国共産党大会は、党の最高規則に当たる「党規約」を改正し、中国軍を「世界一流の軍隊に築き上げる」という文言を新たに盛り込んだ。目標とする年限は、軍創設100年の節目となる2027年。多くの専門家は、中国による台湾への軍事侵攻がその年までに実行されると予測する。
一方、米政策研究機関「ヘリテージ財団」が10月に発表した年次報告「米軍事力指数」23年版は、米軍の実力評価について、22年版の「限界状態」から「弱い」に格下げした。これは、財団が過去9年間に下した中で最低の評価だ。
その判定基準は、米軍が2つの大規模な地域紛争で同時に勝利する能力を有するかどうかだ。指数は、中国とロシアの軍事力に関し、最大の難敵を意味する「手ごわい」に位置付け、「米軍が単一の大規模地域紛争にすら対応できない恐れがある」と警告し、米軍が中国軍に撃退される可能性を否定しなかった。
弱体化が特に著しいとされるのが海軍と空軍だ。
同財団によると、海軍が所期の任務を遂行するには400隻の艦船が必要だ。しかし、米議会調査局によれば、21年の米海軍の主要艦船の総数が05年比5隻増の296隻なのに対し、中国海軍は05年比132隻増の348隻に増強された。米海軍は予算の制約が厳しく、このままでは37年の保有艦船数は280隻まで落ち込むとの試算もある。
中国は数だけでなく、空母搭載機の発艦用カタパルトや原潜などに関する米国の技術的優位も確実に脅かしつつある。
米空軍については、保有する軍用機の老朽化と稼働率の低下、パイロットの人数と練度の不足が危機的状況にあるとして「非常に弱い」と判定された。
「自由で開かれたインド太平洋」構想を含め、中露による国際秩序の現状変更の阻止に向けた米国と同盟諸国による統合抑止戦略が機能するには、「強い米軍」の存在が不可欠だ。
米ソが軍拡競争を展開した1980年代、米国の国防費は国内総生産(GDP)比6%を突破し、最終的に東西冷戦の勝利につながった。現在の比率は約3%に過ぎない。戦争の抑止は安上がりに済まないという歴史的事実は、そのまま日本への警鐘でもある。
筆者:黒瀬悦成(産経新聞副編集長兼論説委員)
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2022年11月8日付産経新聞【一筆多論】を転載しています