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北欧の国フィンランドといえば、サンタクロースにムーミン、最近では教育先進国として注目されている。いずれにせよ多くの日本人にとってあこがれの国の一つである。ただ現代史を振り返ると、苦難の連続だった。
1939年初冬、ソ連の侵攻により「冬戦争」が始まる。フィンランド軍はスキー部隊を編成し、森の中でソ連軍の戦車を翻弄した。武器となったのは、酒瓶にガソリンやタールなどを入れた火炎瓶である。当時のソ連外相、モロトフの名をとって「モロトフ・カクテル」と呼ばれた(『物語フィンランドの歴史』石野裕子著)。
ただ兵力の差がありすぎた。その後の「継続戦争」ではナチスドイツの対ソ戦に便乗する形で挽回を図ったものの、結局国土の12%を奪われる。2度の敗戦に懲りたフィンランドは、東西冷戦時代に入っても「中立」を貫いた。
ソ連崩壊後は、欧州との結びつきを強めてEU加盟を果たす。それでも約1300キロの国境で接するロシアを刺激するわけにはいかない。米国主導の軍事同盟である、北大西洋条約機構(NATO)加盟への機運が高まることはなかった。
もっともロシアのウクライナ侵攻は、フィンランドに大転換を迫ろうとしている。次に矛先が向けられる可能性を勘案すれば、集団防衛で立ち向かうしかない。世論調査でも賛成が、初めて過半数に達した。元首相は小紙記者とのインタビューで、加盟は「『もし』の話ではなく、『いつ』の問題だ」と語っている。
そもそもロシアのプーチン大統領は、ウクライナのNATO加盟を阻止するために戦争を始めたのではなかったか。結果的にフィンランドの加盟によりさらなる東方拡大を招いたとすれば、歴史的な大失策である。
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2022年3月9日付産経新聞【産経抄】を転載しています