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バイデン米大統領が新型コロナウイルスを「中国ウイルス」や「武漢ウイルス」と呼ぶことを公式に禁止した事実は日本では意外と知られていないようだ。
バイデン政権は同時に米国の大学が中国共産党の対外宣伝・教育機関の「孔子学院」との接触を米側の公的機関に報告することを義務づけたトランプ前政権の行政命令をも撤回した。
両方とも中国への融和や忖度(そんたく)を思わせる措置であり、「バイデン政権はトランプ前政権と同様の対中強硬策をとる」と断言する向きは直視すべき現実だろう。この2つの措置はいずれも前政権の政策の逆転であり、米国内でも激しい反対論を招いているのだ。
バイデン大統領は1月26日、新型コロナウイルスの米国内での大感染の結果、アジア系米国人への差別や憎悪が生まれているとし、その種の差別を取り締まる大統領令を出した。
その中で同大統領は「このウイルスの起源の地理的な場所への政治指導者の言及がこの種の外国人嫌悪を生んだのだ」と述べた。連邦政府として「中国ウイルス」とか「武漢ウイルス」という呼称を使うことを禁ずることを宣言した形で、政府関連文書でその種の用語の使用を禁止した。
大統領令がいう「政治指導者」とは明らかにトランプ前大統領やその閣僚らを指していた。トランプ氏は昨年春から率先して「中国ウイルス」という呼称を使っていたからだ。
トランプ政権の方針を逆転させたこの措置には保守系の政治学者ベン・ワインガルテン氏が大手誌ニューズウィーク最新号への寄稿で「国際的な感染症を発生地名で呼ぶことはごく普通であり、その禁止は隠蔽(いんぺい)の責任を隠す中国政府を喜ばし、米国の国家安全保障への脅威となる」と激しく反対した。
バイデン政権が孔子学院に関するトランプ前政権の行政命令を撤回したのも同じ1月26日だった。
トランプ前政権は孔子学院が米国の多数の大学で講座を開くのは中国共産党の独裁思想の拡散やスパイ活動のためだとして刑事事件捜査の対象としてきた。同政権はその政策の一環として米側の各大学に孔子学院との接触や契約があれば政府当局に報告することを行政命令で義務づけてきた。
だがバイデン政権はその行政命令をなくす措置をとったのだった。同政権はこの措置をあえて公表しなかったため、新型コロナウイルスの呼称に関する措置とともに米国内一般に情報が広がるのが遅れていた。
その結果、2月中旬になってまず議会の共和党側ではバイデン政権の孔子学院に関する措置に対して強い反対が表明された。
マルコ・ルビオ上院議員やマイケル・マコール下院議員が以下の趣旨の声明を出したのだ。
「孔子学院の米国内での活動は米国の高等教育機関や学生への危険な洗脳、影響力行使の工作だと証明されているのにバイデン政権の規制撤回の措置はそんな工作の黙認につながる」
ルビオ議員は特に「バイデン大統領は言葉では中国を『戦略的競争相手』などと批判するが、実際の行動ではすでに習近平政権への融和の道を歩み始めた」と厳しく論評した。
こうした展開はバイデン政権の中国に関する言葉ではなく実際の行動として注視すべきだろう。
筆者:古森義久(産経新聞ワシントン駐在客員特派員)
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2021年2月22日付産経新聞【緯度経度】を転載しています