北朝鮮では昨年12月28日から4日間、労働党中央委員会全体会議が開かれた。本来なら党中央委員と同候補の300人で行う会議だが、今回は中央委員候補より下の党、行政機関、軍の幹部が全国から平壌に集められ、傍聴席を埋めたので、約2000人に膨れ上がった。
会議では金正恩委員長が約7時間、報告演説をした。その内容は一言で言うと「自力更生と制裁との対決」だ。最新情報を加えて、金正恩報告を紹介する。
枯渇する北朝鮮の統治資金
米国の制裁の結果、北朝鮮では外貨が枯渇しつつあり、幹部らの生活の保障さえ危うくなってきた。金委員長は「この数ヵ月間われわれが直面した挑戦は、普通なら一日も持ちこたえられない非常に厳しく危険極まりない難関であった」と述べた。外貨不足に直接の言及はないが、1月初めに平壌から届いた情報によると、金正恩の統治資金は今年秋には完全に枯渇するという。
しかし、北朝鮮は制裁解除を実現するために米国の求める核ミサイル廃棄には応じない。金委員長は「われわれにとって経済建設に有利な対外的環境が切実に必要であることは確かだが、華麗な変身を願って、これまで生命のように守ってきた尊厳を売り渡すことはできない」と述べた。
金委員長は2000人の幹部に、党は助けないから自力で制裁による経済悪化を正面突破せよ、と言い放った。報告のタイトルは「われわれの前進を妨げるあらゆる難関を正面突破戦によって切り抜けていこう」であり、「正面突破」と「自力」が繰り返し語られた。決意があれば客観的条件は変えられるという精神主義だ。金委員長は「困苦欠乏に耐えて必ず自力富強、自力繁栄して国の尊厳を守り、帝国主義を打ち負かすということがわれわれの強い革命的信念だ。不屈の革命信念と燃えるような祖国愛、堅忍不抜の闘争精神をもって引き続き力強く闘うならば、難関は撃破される」と主張した。
さらに金委員長は「反社会主義、非社会主義的傾向を一掃するための闘争を強力に展開」すると述べ、不満を言う者を容赦せずに粛清することを宣言した。昨年12月、対米交渉失敗の責任を問われて外交官4~5人が銃殺されたという情報がある。
強まる国民の不満
北朝鮮国民の間では次のような話が拡散しているという。
「金正恩ではもうこの国はだめだ。米国との対立が長期戦になるから自力更生で耐え抜けと、金正恩は今回命じた。昨年2月、ハノイでの米朝首脳会談に向かう時には、トランプ(米大統領)を手玉にとって核保有国の地位を認めさせた上で、制裁を解除させ、経済支援を得るので、人民の暮らしは良くなると大宣伝したのに、うそつきだ」
北朝鮮は昨年末に、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)か大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射、静止衛星の打ち上げのどれかを行う準備をしていたが、トランプ政権による軍事報復の恐れ、SLBMに使われる固体燃料の原料輸入担当者の逃亡、大型潜水艦が未完成などの理由で、延期になったという。
筆者:西岡力(国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授)
国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第645回(2020年1月7日付)を転載しています。