~~
普段からよくゲームをする人が「音ゲー」(音楽ゲーム)と呼ばれるリズムゲームをプレイすると、注意機能が向上する可能性があることが、九州産業大学人間科学部の萩原悟一准教授、木原沙織助手の研究で分かった。ゲームの腕を競い合う「eスポーツ」が世界的な盛り上がりを見せる中、ゲーマーのトレーニングツールとして注目を集めそうだ。研究論文はデジタル領域の学術論文を掲載する電子ジャーナル「Journal of Digital Life」(ジャーナル・オブ・デジタル・ライフ)で公開されている。
世界が注目するeスポーツ市場
近年、世界的に盛り上がりを見せるeスポーツは「エレクトロニック・スポーツ」の略で、テレビゲームでの対戦をスポーツととらえて行われる競技を指す。ジャンルは、キャラクター視点で戦うFPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)やレースゲーム、カードゲームなど多岐にわたり、世界の競技人口は1億人を超えるとされる。
2022年に開催されるアジア競技大会では、eスポーツが正式なメダル種目にもなり、世界的な潮流はeスポーツ後進国とされる日本にも波及。2018年に「日本eスポーツ連合」(JeSU)が設立されると、eスポーツ発展のための環境整備が動き出した。
経済産業省はコンテンツ分野の新たな成長産業としてeスポーツ市場に注目。eスポーツ活性化に向け、医療や教育分野での研究も推進していく方針を示しており、より実証的な研究をすることの必要性を説いている。こうした流れを踏まえ、萩原准教授らはゲームの「娯楽以外の目的」での活用を視野に入れ、リズムゲームが人間の注意機能に及ぼす影響について検証を行った。
プロ選手が試合前にリズムゲーム「Osu!」をプレイ
リズムゲームとは、音楽に合わせて画面に表示されるマーカーを、指示されたタイミング・順番でタップやドラッグするなどしてスコアを稼ぐゲームだ。
論文では、数あるゲームの中でリズムゲームに着目した理由について、「複数のプロeスポーツ選手が、練習や試合の前にリズムゲームをプレイして、体力や精神力を向上させていると述べている」ためと説明。人気シューティングゲーム「FORTNITE」をプレイする人気プロ選手が、オーストラリアのプログラマーが開発したリズムゲーム「Osu!」(オス)をプレイしているという事例を紹介している。
ただ、すでに萩原准教授らの先行研究では、普段ゲームをプレイする男子大学生たちが、「Osu!」のプレイ後に注意機能が有意に改善されることが明らかになっている。
このため今回は、被検者の属性を20代のゲーマーに限定せず、広く一般に向けてリズムゲームが認知機能に与える影響を明らかにするべく検証が進められた。
トレイルメイキングテスト(TMT)で注意機能を評価
実験では、注意機能を評価するために「トレイルメイキングテスト」(TMT)と呼ばれる指標が用いられた。
このテストは、1~25までの不規則に並ぶ数字をできるだけ早く番号順に線をつなぐ「パートA」と、13個の数字と12個のひらがなを「数字→ひらがな→数字→ひらがな」と順番に線でつなぎ、最後の「→13」までを結ぶ「パートB」に分けて行われた。
それぞれの解答タイムを計測し、解答時間が早いほど能力が高いと言える。論文では、テストで必要となる能力に「数字や文字の認識、視覚探索、目と手の共同運動の速度、情報処理の速度、精神活動の柔軟性、運動機能」を挙げている。
参加者は20~50代の成人男性16人。まずゲームプレイ前に気分に関するアンケートに回答を募り、脳波計を2分間装着。TMTを実施した後、10分間(4ゲーム)「Osu!」をプレイした。ゲーム終了後は再びTMTとアンケートで注意機能と気分の変化を測定。結果は、被検者の「年齢」と「ゲームプレイ頻度」の2つを軸に、統計解析ソフト「IBM SPSS Statistics(バージョン 26.0)」を用いて分析した。
高齢者、高頻度ゲーマーほど注意機能が向上
実験の結果、ゲームプレイ後のTMTのタイムは、若年層より高年齢層の方が速くなる傾向がみられることが判明。論文では「ゲームの注意機能に対する効果は、若年者よりも高齢者の方が大きく、ゲームが50代以上の注意機能を向上させる可能性が示唆された」と分析している。萩原准教授らが知る限り、異なる年齢層を比較した研究結果はいまだ発表されておらず、「新しい知見」だという。
他方、普段ゲームをする頻度を「低頻度・中頻度・高頻度」の3段階に分類してタイムを比較すると、低・中頻度の人は「Osu!」のプレイ後にTMTのタイムが低下したのに対し、高頻度の参加者はタイムが速くなった。ゲームの頻度によって、注意機能への影響が異なる可能性も考えられそうだ。
論文では、普段ゲームをする人ほど注意機能に影響があったことから、リズムゲームのプレイは「ゲームユーザーのトレーニングツールとして機能する」と推測。また、高年齢層の注意機能を向上させる可能性もあることから、「健康増進のためのツールとして利用できることが示唆された」と結論付けた。
筆者:齋藤顕(SankeiBiz編集部記者)
※SankeiBizの記事を転載しています