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米食品医薬品局(FDA)が、日本の製薬大手エーザイと米バイオ医薬品大手バイオジェンが開発したアルツハイマー病の治療薬「アデュカヌマブ」を迅速承認した。
病気が進む疾患の仕組みに働きかけて、進行の阻害を狙った初めての薬である。米国では2003年以来のアルツハイマー病治療薬の承認だ。
これまでは対症療法的な薬しかなく、患者や家族は疾患を「治す」薬を待ちわびていた。その最初の一歩である。患者とともに登場を喜びたい。
日本でも昨年12月に厚生労働省に承認申請が出された。加藤勝信官房長官は「日本でも実用化されれば、認知症施策推進大綱が掲げる共生と予防の推進にも資する」と期待感を示した。
早ければ年内にも承認の可否が示される。迅速に審査をしてもらいたい。
この薬が効くのは、アルツハイマー病の初期の人や、この病気の前段階に当たる軽度認知障害の人だ。アルツハイマー病でない認知症や、進行した人は対象外となる。月1回点滴で投与される。
アルツハイマー病は、脳内に蓄積された「アミロイドベータ」と呼ばれるタンパク質が神経細胞を壊し、認知機能の低下を引き起こすとされる。
承認のために行われた治験では、1年半の使用でこの有害なタンパク質を減らすことが確認された。ただ、患者に表れる認知機能の改善効果は限定的だった。
承認でもこの点が課題になり、FDAは疾患の深刻さなどに配慮して承認すると同時に、臨床上の有用性を証明する追加試験の実施を求めた。結果次第で承認の撤回もあり得るとする。希望をもって見守りたい。
認知症の治療薬開発は世界的に難航してきた。製薬各社の撤退が続く中で開発の意志を貫いたメーカーの取り組みは評価される。
今回の治療薬の費用は患者1人当たり年間約610万円と試算される。米国の制度と異なり、日本では薬剤が承認されれば国民皆保険下で使うことができる。
ただ、日本における認知症患者の数は令和2年で約600万人と推定され、うち7割弱がアルツハイマー病だ。その数%でも数千億円規模となる。対象者の設定や、価格引き下げの努力なども課題となる。
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2021年6月13日付産経新聞【主張】を転載しています