201811 UKRAINE CHERNOBYL

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ウクライナのチェルノブイリ原子力発電所が9日、停電に陥った。送電線から原発への電力供給が遮断された結果だ。

 

同原発は2週間前からロシア軍による占拠が続き、多数の発電所員が人質状態になっている。異常事態である。

 

ロシア側は隣国のベラルーシが電力供給を回復させたとしているが、国際原子力機関(IAEA)が電源回復の状況を厳密に検証すべきである。

 

IAEAのグロッシ事務局長は突然の外部電源喪失について、廃炉中の原発の安全性に関わる事態として強い懸念を表明した。

 

保管プール内にある使用済み燃料の破損を危ぶむ声も上がったが、放射性物質の飛散に至る可能性は低い。グロッシ氏は「電力なしでも使用済み燃料が発する熱を除去するのに十分な量の水がプールに存在する」としている。

 

同発電所には、旧ソ連時代の1986年に大事故を起こした4号炉があるが、残り3基の発電用原子炉も91年から2000年までの間に、すべて廃炉に向けた工程に入っている。

 

運転停止後の歳月で、使用済み燃料中の核分裂生成物が発する崩壊熱は大幅に低減している。東京電力福島第1原子力発電所事故の直後とは状況が違う。

 

使用済み燃料の冷却に差し迫った危険はないとはいえ、チェルノブイリ原発の現状は異常の極みにある。人質に等しい発電所員は交代も許されない。肉体的、精神的ストレスは、いかばかりのものか。所員の疲労は、廃炉中の原発の安全性をむしばみ続ける。

 

IAEA本部 (ロイター)

 

とりわけ憂慮されるのが、チェルノブイリ原発からウィーンのIAEAの本部へのデータ送信の途絶である。発電所内の要所には核燃料管理などを常時監視するカメラが設置されている。

 

停電などによってもIAEAのリモート監視に空白が生まれる。その間に、プルトニウムを含有する使用済み燃料をロシア軍が持ち出すことも可能になろう。

 

行方不明分をウクライナの核兵器密造の証拠とし、同国への軍事侵攻の口実にしようとしているのではないか、と疑われても仕方あるまい。同様のデータ途絶はロシア軍が制圧したザポロジエ原発でも起きている。

 

プーチン大統領が潔白を証明したいなら、両原発から即刻、部隊を撤退すべきだ。

 

 

2022年3月12日付産経新聞【主張】を転載しています

 

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