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選挙の結果が暴力で覆ることはない。
暴力が支持を得ることもない。それが民主主義のルールだ。
ブラジルの首都ブラジリアで1月8日、ボルソナロ前大統領の支持者が暴徒化し、大統領府や議会、最高裁判所を襲撃した。警察は数時間で制圧し、9日までに計約1500人が拘束された。
民主主義の象徴である三権を対象とした攻撃は決して許されるものではない。事件は同国の民主主義の大きな汚点となった。
ルラ大統領は9日、上下両院の代表、最高裁長官との三権の長の連名で「テロ、器物損壊、犯罪、クーデターを拒絶する」とする声明を出し、社会が平静を保つことを呼びかけた。
今回の事件は、2年前にトランプ前大統領の支持者らが起こした米連邦議会議事堂襲撃事件と酷似している。暴徒らが、前年秋の大統領選の選挙結果を受け入れず、十分な根拠を示さぬままに「選挙は盗まれた」と無効を主張するのも共通している。
昨年末に米南部フロリダ州にわたったボルソナロ氏は襲撃について、ツイッターで「法から外れている」と述べた。
一方で、米紙は同氏に近い人物が、選挙結果をめぐりトランプ氏の側近らと情報交換していた可能性を指摘した。トランプ氏の元側近で排他的な姿勢で知られるバノン氏は襲撃の参加者を「ブラジルの自由の闘士たち」とSNS(交流サイト)上で称賛した。
それにしても、ボルソナロ氏の支持者は米国の例から何も学ばなかったのだろうか。トランプ氏は米国での襲撃事件を煽(あお)ったと見なされたことで支持者の離反を招いた。次期大統領選への出馬表明後も、かつての支持や影響力を取り戻せないでいる。
ブラジルの暴徒らは100台のバスに分乗して現場に駆け付けたという。同国のディノ法相はバス移動を資金面で支援した人物の特定を急いでいる。襲撃に関与した人物は厳正に裁かれるべきだ。
事件の衝撃はブラジルだけにとどまらない。グテレス国連事務総長は「ブラジルは偉大な民主主義国家であり、そうなると確信している」とSNSで発信した。
ルラ、ボルソナロ両氏には地域大国の指導者として、国内の分断を修復し、民主主義の力を内外に示す責任がある。
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2023年1月11日付産経新聞【主張】を転載しています