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ロシアのプーチン独裁体制に盾突いた反逆者には残酷な末路が待つ。今回も「血の粛清」史の新たな一ページなのか。
今年6月、プーチン政権に反旗を翻した民間軍事会社「ワグネル」創設者のプリゴジン氏が搭乗する自家用ジェット機がモスクワ北西のトベリ州で墜落し、乗員乗客10人全員が死亡した。
プーチン大統領は「悲劇だ。プリゴジン氏は才能ある人物だった」として「哀悼の意」を表明した。プーチン氏は2カ月前、プリゴジン氏の反乱を受けた緊急のテレビ演説で「われわれが直面するのは裏切りと反逆だ」と断じた。いったんは赦免したが、本音ではやはり許せなかったのではないか。
プーチン氏には、ウクライナ侵略の「ひな型」とされ、残忍な殺戮が行われた第2次チェチェン紛争の渦中に「裏切り者は便所でも捕まえてぶち殺す」と口走った過去がある。通底するのは敵とみなした相手に対する歪んだ復讐心なのだろう。
バイデン米大統領は「(墜落に)驚いてはいない。ロシア国内の出来事でプーチン氏が背後にいないことはあまりない」と語り、米国防総省のライダー報道官は「プリゴジン氏は暗殺された可能性が高い」と指摘した。一部の米紙は「機内に仕掛けられた爆発物によるテロの可能性」を報じている。
墜落機にはワグネルの共同創設者のウトキン氏も同乗していた。墜落前日には、反乱計画を事前に知っていたとされるウクライナ侵略のスロビキン副司令官が解任された。
これらが粛清の始まりなのだとすれば、プーチン氏や軍による恐怖体制の本性が牙を剝いた復讐劇といえる。ウクライナの激戦地に投入されたワグネルは、ショイグ国防相ら軍幹部と敵対していた。
プリゴジン氏は反乱で部隊をモスクワに向けて進軍させ、プーチン氏の「侵略の大義」を頭から否定して体制の混乱と弱体化を世界に晒した。プーチン氏の恨みは深かったはずだ。
プーチン政権の「血の粛清」にあった犠牲者は、「チェチェンの闇」を暴いて暗殺された女性記者、ポリトコフスカヤさんや元情報機関員、リトビネンコ氏ら枚挙にいとまがない。世界と敵対するこの恐怖体制は一刻も早く崩されねばならない。
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2023年8月26日付産経新聞【主張】を転載しています