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凶弾に倒れた安倍晋三元首相と日本に対し、世界各国・地域の首脳らから、心のこもった追悼のメッセージが数多く寄せられている。
世界のリーダーから認められた安倍氏の存在感の大きさに改めて思いが至る。それは同時に、安倍氏が確立した日本外交に対する国際社会の評価と期待の表れと受け止めたい。
世界は今、ロシアのウクライナ侵略という暴挙で大きく揺らいでいる。だからこそ日本は安倍外交を発展させ、国際秩序の立て直しに役割を果たさねばならない。
安倍氏は外交の前提となる理念を示し、それを具体的な行動に移して国際社会の理解を広げた。バイデン米大統領が岸田文雄首相との電話会談で、「自由で開かれたインド太平洋」構想や、日米豪印の協力枠組み「クアッド」を安倍氏の「遺産」と語ったことが、その成果を端的に示していよう。
インド太平洋構想は、南北アメリカ大陸西岸からアフリカ大陸東岸までの広大な地域で、国際ルールに基づく平和と安定を保ち、繁栄を追求しようというものだ。
安倍氏が2016年のアフリカ開発会議で提唱し、米国もトランプ政権時に採用した。安倍氏の理念が「アジア回帰」を模索していた米国の背中を押し、さらには欧州も引き込むことになった。
覇権を追求する中国は東、南シナ海で力まかせの海洋進出をもくろみ、途上国に対しては、借金漬けの危険が伴う「一帯一路」で影響力を行使しようとしている。安倍氏の構想は、こうした動きに歯止めをかける外交戦略だ。
米国の離脱で危機に陥った環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)が米国抜きの11カ国で発効できたのも、各国を糾合した安倍政権に負うところが大きい。今の日本外交は、安倍氏が築いた土台の上にあることを銘記したい。
折しも、8日に閉幕したインドネシア・バリ島での20カ国・地域(G20)外相会合では、米欧とロシアの激しい対立で共同声明の発出が見送られた。力を頼みに国際秩序の現状変更を目指す中国やロシアが参加する以上、G20には容易に機能しない面がある。
民主主義国が専制主義国の暴挙を封じるには、新興国や途上国を引き込むことが欠かせない。そうした外交でいかに日本が主導権をみせるか。安倍氏が築いた日本外交の真価が問われよう。
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2022年7月10日付産経新聞【主張】を転載しています