家宅捜索した高橋治之容疑者の自宅を出る東京地検特捜部の車両
=7月26日、東京都世田谷区(共同)
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不正に関与した関係者はまず、東京五輪・パラリンピックに出場し競技に全力を尽くしたアスリートや大会運営に汗を流したボランティア、そして五輪とスポーツそのものに謝罪してほしい。
汚職の構図を放置してきたスポーツ界のトップもそれは同様である。
大会組織委員会の理事だった元電通専務、高橋治之容疑者を収賄側とする一連の贈収賄事件は、底知れぬ広がりをみせている。高橋容疑者は紳士服大手「AOKIホールディングス」側から賄賂を受け取ったとして受託収賄罪で起訴され、出版大手「KADOKAWA」側からの受託収賄容疑でも再逮捕された。
広告大手「大広」からの資金提供についても東京地検特捜部の捜査が進んでいる。
あげく昨夏の東京大会は「汚れた五輪」と罵声を浴びることとなり、不正とは無縁の選手らの名誉やボランティアらへの称賛、そして祭典が示したスポーツの価値は大いに毀損(きそん)された。
安易な、もしくは意図的な混同は許し難く、これを避けるためにも捜査の徹底を求めたい。
それにしてもスポーツ界の当事者意識の希薄さは理解し難い。
日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長は事件について「イメージが大きく損なわれたのは事実」と述べ、スポーツ庁の室伏広治長官は「ニュースを見るたびに悲しく、つらい思いをしている」と語った。
まるでひとごとである。トップの言葉からは、スポーツ界が自ら不正と決別する気概も意欲も感じ取れない。大会が不正の温床となっていたことへの反省もない。全く知らなかったというなら、それは無能の証明だろう。東京地検の捜査に事実解明の全てを任すなら、自浄の放棄ともいえる。
例えば東京五輪の招致段階で招致委員会は高橋容疑者の会社に総額約8億9千万円を振り込んでいる。巨額の使途については招致委が解散していることもあり、明らかにされていない。
刑法上の容疑の有無とは別に、渦中の会社への巨額支出とその行方について、招致委の主要組織だったJOCは解明に乗り出すべきなのだが、誰もこのブラックボックスに触れようとしない。
この体たらくのまま札幌冬季五輪招致を訴えても、札幌市民や国民は聞く耳を持つまい。
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2022年9月8日付産経新聞【主張】を転載しています