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通常国会が閉幕した。
新型コロナウイルス対策に取り組み、令和3年度予算、改正国民投票法などを成立させた150日間だったが、最終盤になって、国会や政党が重大な問題を抱えていることを改めて露呈した。
中国政府による深刻な人権侵害を非難する国会決議案の採択が、自民、公明両党の執行部の判断で見送られたことである。
そこで浮かび上がるのは、専制主義の中国と対峙(たいじ)して自由、平和、繁栄を守っていかねばならないという時代の要請を理解しない国会と政党の姿である。まるで時が止まっているかのようだ。
深刻な問題を露呈した
ウイグル問題などの議員連盟関係者らが原案を作った今回の非難決議案は、中国の新疆ウイグル、チベット、内モンゴルの各自治区や香港に加えてミャンマーも例示し、「信教の自由への侵害、強制収監をはじめとする深刻な人権侵害が発生している」として即時停止を求める内容だ。
人権侵害を防ぎ、救済する法整備の検討に着手する「強い決意」も盛り込まれている。
日本維新の会、国民民主党、立憲民主党や自民の外交部会などが了承手続きを終えたが、公明の同意が得られず、採決見送りとなった。国会決議は全会一致とする慣例を盾に取った判断といえる。
そもそもこの決議案は、中国政府との関係を重視する公明などに配慮して「中国」という文言を避けている。衆参両院でミャンマーのクーデターを非難する決議を採択したばかりなのに、今回の決議案で再びミャンマーを加えたのも、中国色を薄めて賛同を得たい苦肉の策だったのだろう。だが、それも通じなかった。
自公執行部は大国ではないミャンマーのクーデター非難決議は通し、中国絡みの決議には及び腰になったのか。中国共産党政権の反発を恐れ、人権侵害に苦しむ人々に手を差し伸べないのだとしたら本当に情けない。国会決議を期待していた在日ウイグル人らは失望している。
菅義偉首相は先進7カ国首脳会議(G7サミット)に出席し、ウイグルの人権や香港の高度な自治を認めるよう中国に求めた首脳声明を出したばかりだ。菅首相は同行記者団に「自由、人権、法の支配について中国もしっかり保障すべきだ。(中国に)言うべき点はきちんと主張し、付き合っていきたい」と語っていた。
決議見送りは価値観を重視する菅政権の外交に水をさし、弾圧者である中国共産党政権を勢いづける決定的に誤った判断である。
平成7年の衆院の戦後50年決議のように全会一致とはいえない決議もあった。今回の決議案に異議を唱える政党や議員は、堂々と反対の意思を表明して採決に臨めばよかったのである。
公明は「人権の党」という看板と矛盾する姿勢をとっていないか。見送りの理由を、同党の山口那津男代表や自民の二階俊博幹事長、森山裕国対委員長はきちんと説明してほしい。
土地法案は成立したが
与党の執行部が中国共産党政権におもねる姿勢を示すようでは、政府が中国の脅威に備えるための防衛力充実や経済安全保障を強化する諸政策をきちんと遂行していけるのか、不安が募る。
自民党総裁である菅首相は自公執行部に説いて、媚中(びちゅう)にみえる姿勢を改めさせる責任がある。
有力な野党の側にも根深い問題がある。
安全保障上重要な土地の利用を政府が調査、規制できるようにする土地利用規制法が16日未明、与党と維新、国民の賛成多数で成立した。自衛隊や海上保安庁の施設、原子力発電所など重要インフラや国境離島を守るのに必要な法律の制定は歓迎すべきことだ。
問題は、野党第一党の立民と共産党が成立を妨げようと徹底抗戦したことだ。安全保障上、極めて無責任な姿勢といえる。法律にのっとった土地の売買や利用は少しも制限されない。困るのは、スパイ行為や妨害・破壊工作の意図がある敵性国や勢力だけだ。立民が足を引っ張るようでは、建設的な安全保障論議は難しい。
国会は新型コロナ対策のため閉会中審査を行うだろう。それは当然だが、尖閣諸島(沖縄県)の防衛や台湾、人権問題などをめぐっても委員会を開き、真剣な議論を進めてもらいたい。
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2021年6月17日付産経新聞【主張】を転載しています