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北朝鮮が「軍事偵察衛星」の打ち上げを試みたが失敗した。北朝鮮国家宇宙開発局は黄海へ「新型衛星運搬ロケット」が墜落したと認め、できる限り早期に再発射すると宣言した。
北朝鮮の主張通り偵察衛星の打ち上げだったとしても、衛星運搬ロケットは長距離弾道ミサイルそのもので、発射は国連安全保障理事会決議に明確に反する。偵察衛星を運用すれば北朝鮮の核ミサイル戦力の脅威は増大する。
平和を乱す危険な打ち上げは絶対に容認できない。北朝鮮は直ちに核ミサイル戦力を放棄し、偵察衛星保有も断念すべきだ。
北朝鮮国家宇宙開発局は「ロケット」の第2段エンジンが正常に始動しなかったとした。人工衛星を地球周回軌道に投入するには大陸間弾道ミサイル(ICBM)以上の速度が必要だ。それに北朝鮮は失敗したことになる。
北朝鮮は1998年から人工衛星打ち上げと称するミサイル発射を繰り返してきた。2012、16年には軌道へ物体を投入したが、通信、偵察用の衛星を運用できたわけではない。今回初めて、軍事目的を掲げて発射したのは自衛隊や米軍、韓国軍などを監視するためだ。成功まで執念深く打ち上げを続けかねない。
日本政府は北朝鮮に厳重抗議した。必要な対応だが、それだけで改心する相手ではない。米韓両国とも連携し、制裁強化など圧力を強める必要がある。
そこで障害となるのが、安保理などで北朝鮮を擁護する中国とロシアの存在だ。とりわけ中国は朝鮮半島の緊張は米国による対北圧力が原因と唱えている。本末転倒も甚だしい。中国は北朝鮮をつけ上がらせてはならない。
「衛星」再発射への警戒は怠れない。浜田靖一防衛相は、沖縄県内に展開している地対空誘導弾パトリオット(PAC3)などの迎撃態勢を維持する方針だ。ただし、迎撃ミサイルの運用は、台風など気象条件に左右される。
そこで、迎撃態勢と合わせ重要なのは住民の避難だ。同県内に発令された全国瞬時警報システム(Jアラート)は、建物や地下への避難を呼びかけた。それはよいとしても、安全が格段に高まる地下への避難が離島などでどれほどできるのか。国や県にはシェルター(防空壕)や地下駐車場の整備を進めてもらいたい。
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2023年6月1日付産経新聞【主張】を転載しています