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岸田文雄首相は5月27日、北朝鮮による拉致問題の解決を求める「国民大集会」に出席し、「拉致問題はひとときもゆるがせにできない人権問題だ」とし、「(日朝)首脳会談を早期に実現すべく、私直轄のハイレベルの協議を行っていきたい」と述べた。
これを受けて北朝鮮のパク・サンギル外務次官は、拉致問題は解決済みとしつつ「日本が新たな決断を下し、関係改善の活路を模索するなら、朝日両国が会えない理由はない」との談話を出した。
北朝鮮が協議の実施に触れたのは、2016年1月の核実験を理由に日本が独自制裁の強化を決めて以来とみられる。日朝首脳の直接協議を実現させ、なんとか横田めぐみさんら拉致被害者全員の帰国に結び付けてほしい。
拉致問題は、北朝鮮の国家機関による残酷で無慈悲な誘拐事件である。北朝鮮の側から会談に条件をつけるような物言いは、本来はあり得ない。
加えて北朝鮮は29日、「人工衛星」を5月31日から6月11日の間に打ち上げると日本に通告した。衛星と称しても実態は弾道ミサイルで、国連安全保障理事会決議違反の暴挙である。
松野博一官房長官は「南西諸島を含め、日本の領域を通過する可能性はある」と述べ、浜田靖一防衛相は自衛隊にミサイルが日本に落下する場合に迎撃を可能とする「破壊措置命令」を発出した。
日朝首脳会談の機運を打ち消すのは、常に北朝鮮の側だ。犯罪加害者の立場を顧みず、ひたすら孤立の道を歩む先に国家としての繁栄はないと気づき、まず発射という軍事的挑発をやめるべきだ。
拉致被害者の「家族会」は今年2月、「全拉致被害者の即時一括帰国が実現すれば、日本政府が北朝鮮に対して人道支援をすることに反対しない」との新たな運動方針を採択した。
誰よりも北朝鮮を憎み、怒る家族会が断腸の思いで救いの手を差し伸べる新方針を採択したのは、拉致被害者やその家族の高齢化に伴う時間の制約があるためだ。
時間の制約は北朝鮮にとっても同様のはずである。拉致問題の解決は、北朝鮮が国際社会に復帰する最後の機会と知るべきだ。「拉致問題の解決なしに北朝鮮は未来を描けない」。その事実を繰り返し突きつけなくてはならない。
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2023年5月30日付産経新聞【主張】を転載しています