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中国の呉江浩駐日大使が、着任直後の記者会見で、日本が台湾問題を安全保障政策と結び付ければ、「日本の民衆が火の中に連れ込まれる可能性がある」と語った。
耳を疑う発言だ。中国が日本国民を軍事攻撃することもいとわないという恫(どう)喝(かつ)だ。日本国民を対象に、これほどあからさまな脅しをかけた外国大使はいまい。到底容認できない。
日中平和友好条約第1条第2項は、両国は「すべての紛争を平和的手段により解決」し、「武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認」している。この条項を忘れたのか。
林芳正外相は呉大使本人を外務省に呼び出し、厳重に抗議すべきだ。好ましからざる人物(ペルソナ・ノン・グラータ)として追放するのがふさわしいとの意見も野党議員らから出ている。
問題の発言は、4月末に東京・日比谷の日本記者クラブで行われた記者会見で飛び出した。呉大使は「台湾有事は日本有事」との認識について「あまりに荒唐無稽で危険だ」と批判した上で、「日本という国が、中国分裂を企てる戦車に縛られてしまい、日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」と語った。
立憲民主党の松原仁衆院議員は衆院外務委員会で呉大使の発言を批判し、国外追放すべきだとの考えを示した。自民党の佐藤正久参院議員はツイッターで、呉氏を「戦狼(せんろう)」と批判した。戦狼とは他国を恫喝、威嚇する中国の攻撃的な外交スタイルを指す。
呉大使は、5月9日の着任レセプションで「中国は日本にとって昔も今も将来も脅威ではない」と語ったが、「火の中」発言について謝罪も撤回もしていない以上、説得力はない。
岸田文雄政権の対応は生ぬるい。林外相は衆院外務委で「(呉大使発言は)極めて不適切だ」として外交ルートを通じ抗議したと明かした。これでは不十分だ。発言直後に大使を呼びつけて抗議しなかったのはなぜか。軍事攻撃で国民を火の中に叩(たた)き込むことを示唆する脅しをされたのに、部下に抗議させて済ませているようでは林外相の適格性が疑われる。
一方で、呉大使の発言で、台湾有事は日本の安全に直結する問題だと改めて裏付けられた。岸田政権には国民の命と安全を守る備えに全力を尽くしてもらいたい。
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2023年5月13日付産経新聞【主張】を転載しています