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オウム真理教による地下鉄サリン事件から、27年となった。
平成7年3月20日朝、通勤時間帯に中央官庁が集まる都心の霞が関を通る地下鉄3路線の5車両に猛毒の神経ガス「サリン」がまかれ、14人が死亡、6千人以上が重軽傷を負った。
首都の中心部を襲った未曽有の無差別テロ事件である。教団の目的が国家転覆にあり、ロシアから軍用ヘリコプターや自動小銃を購入していたことも分かっている。
一連の事件では、松本智津夫元死刑囚=教祖名・麻原彰晃=ら13人の死刑が確定し、30年7月に執行された。
だが27年を経た今も、遺族や被害者の悲しみ、苦しみは癒えることなく、多くの人が視覚障害などの後遺症に苦しめられている。事件は終わっていない。
今月20日、地下鉄職員の夫を亡くした高橋シズヱさんは東京メトロの霞ケ関駅で献花し、事件が風化することを懸念して「若い人たちに(事件を)伝えることが一番の活動の目的。目標を一つ一つ達成していきたい」と話した。
政府や関係機関も、国の中枢部を化学テロに襲われた世界でも稀有(けう)で残虐な事件の記憶を、広く世界に伝えるべきである。
折しも、ウクライナ侵略を続けるロシアが首都キエフや南東部のマリウポリで生物・化学兵器を使用する可能性が高まっている。
米国やウクライナが生物・化学兵器を開発しているとの偽情報をロシアが拡散していることについて、バイデン米大統領はロシアが使用を検討している「明確な兆候だ」と述べた。
一たびサリンなどの生物・化学兵器が使用されれば、一般市民の被害は甚大なものとなり、救助活動もままならない。交通などインフラの担い手も行動が制約され、悲惨な状況は長時間続く。
思うようにならない戦況にロシアのプーチン大統領はいらだちをみせているとされ、生物・化学兵器のみならず、戦術核兵器の使用も懸念されている。
日本は世界で唯一の被爆国であるとともに、首都での化学テロも経験した。今、ウクライナで起きている悲劇は遠い欧州の戦争ではなく、我(わ)がことと考え、やれることをやらなくてはならない。地下鉄サリン事件を語り継ぐことも、その一つとなる。
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2022年3月24日付産経新聞【主張】を転載しています