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難局が重なる中で、現憲法は施行74年を迎えた。
日米首脳は4月の会談時の共同声明で、中国の脅威を念頭に、台湾海峡の「平和と安定の重要性」を強調した。尖閣諸島を含む沖縄と、台湾の平和と安全は切り離せない。
北朝鮮の核・ミサイル、日本人拉致の問題は解決の兆しがみえない。新型コロナウイルスの感染拡大で3度目の緊急事態宣言が4都府県に発令されている。
これらの危機を乗り切るに当たって、今の憲法は十分ではない。早期の改正が必要である。
「同盟拡大」も許さない
まず指摘したいのは、日本の平和を守っているのは憲法第9条ではなく、自衛隊と日米安保条約に基づく米軍の抑止力であるという点だ。力の信奉者である中国や北朝鮮が日本の憲法を尊重するはずもない。冷戦期の旧ソ連も同様だった。
抑止力の整備が安全保障や外交力を裏打ちするが、9条を旗印にする陣営はそれを理解せず、現実的な安全保障政策を妨げてきた。安保関連法の制定などはあったが、9条の弊害はなお根強い。
日本が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」構想は多くの国から賛同を得ている。日米豪印4カ国は安保協力を進める「クアッド」という枠組みを作った。いずれも国際法を無視した中国の膨張を防ぐねらいがある。
安倍晋三前首相は雑誌「外交」のインタビューで、在任中のメイ英首相(当時)とのやり取りについて、「特に日英関係を強化したい-彼女は日英同盟と呼びたいと言っていました」と明かした。
日本が9条を持たない普通の民主主義国であれば、日英関係や「クアッド」を同盟に発展させる道を検討してもおかしくない。中国は「クアッド」をアジア版NATO(北大西洋条約機構)だと批判するが、それ自体が「クアッド同盟」が中国の拡張主義を阻むことを示している。
だが、日本では同盟国を増やして平和を守ろうとする議論はほとんどない。日英や日豪の準同盟という話にとどまるしかない。
9条は日本の存立に関わるという限定的な場合しか集団的自衛権の行使を認めない。そのため日本は、他国と幅広く守り合う約束ができない。米国は日本に基地を置く利点が大きいため同盟関係にあるが、他の国との同盟で抑止力を高める道は封じられている。
尖閣諸島(沖縄県)防衛では海上保安庁の手に余る事態に自衛隊が速やかに出動して対処できるか依然として不安がある。
原因の一つに、自衛隊が諸外国の軍のように迅速かつ強力に動けない制約がある。政府が自衛隊法を、行動、権限を個別に規定する「ポジティブリスト」方式にしたままであるためだ。世界標準の軍のように、とってはいけない行動を定める「ネガティブリスト」方式に改めれば、抑止力は格段に高まる。政府は国際法上、自衛隊は軍として扱われるとしており、自衛隊法の改革は現憲法下でも可能なはずだが、9条を振りかざした強い反対が予想され、政治課題に上っていない。
コロナ禍が欠陥示した
「戦力不保持」を定めた9条2項を削除して、自衛隊を軍と位置付けたり、軍の保持を認めたりすることが9条改正のゴールだ。自衛隊の憲法への明記は、改革の途中段階としてなら意味がある。
新型コロナ禍は、危機、緊急事態にうまく対応できない現代日本の欠陥を露呈させた。感染症に備えた緊急法制はあっても、運用する政治家、官僚が平時の感覚から抜けられず、後手の対応に回っている。平時の法制や手続きにこだわっていては多くの国民の命や国の存続が脅かされる。緊急事態への対応を憲法にも定めたい。そうすることで政治家や官僚に、緊急事態への心構え、国民を救う果断な行動をとろうという問題意識を植え付けたい。緊急事態を確実に解除する憲法上の規定ももちろん重要である。
憲法改正をめぐる国会の動きが鈍いのは残念だ。平成28年の公職選挙法改正内容を反映するだけの国民投票法改正案が、ようやく連休明けの衆院憲法審査会で採決される見通しとなったが、カタツムリのような歩みにはあきれる。
菅義偉首相は最大政党の党首として、憲法改正論議の加速へ指導力を発揮してもらいたい。
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2021年5月3日付産経新聞【主張】を転載しています