中国人民解放軍のために軍事科学技術の研究や装備開発に携わる同国の7つの大学と、日本の国公私立大45校が、学生・学術交流協定を結んでいる。うち9校がナノテクノロジー(北海道大)、原子核(大阪大)などの共同研究を行っていたことが明らかになった。
先端技術の流出で中国軍の戦力強化に利用される恐れがある。交流協定の撤回が急務だ。政府と各大学は、共同研究や留学生の実態を調査すべきである。
中国の習近平政権は、民間の研究成果や技術を活用する「軍民融合」政策を進めている。7大学は北京航空航天大や西北工業大などで、軍事産業を統括する工業情報省の管轄下にある。
これら7大学との交流協定は、文部科学省や日本の大学が、自国と世界の安全保障に対する責任感に乏しいことを示している。
日本の先端技術によって中国軍が強化されれば、尖閣諸島や南シナ海、台湾をめぐり、中国の「力による現状変更」の動きに拍車がかかりかねない。技術的優位を生かして中国軍に対する抑止力を保とうとしている自衛隊や米軍の負担が増してしまう。
友好国の大学との学術交流は望ましいが、尖閣諸島を奪おうと公船を周辺海域に侵入させたり、南シナ海の沿岸国や台湾に軍事的圧力を加える中国との交流には慎重であるべきだ。中国は共産主義国家であり、7大学以外の研究機関、研究者にとっても、中国政府や軍への協力は義務である。
バイデン政権になっても米中対立の基調は変わるまい。冷戦終結からおよそ30年ぶりに安全保障情勢が大転換したと日本の大学、研究機関は自覚すべきだ。7大学のうち4大学が米国政府により禁輸対象に指定されている。日本の大学が関わる共同研究が米政府の制裁対象になるリスクもある。
加藤勝信官房長官は会見で、研究成果の大量破壊兵器への転用防止などの観点から「安全保障貿易管理や営業秘密の漏洩(ろうえい)防止の徹底に向け、大学、企業などの自主的な取り組みや体制整備を促している」と述べたが、不十分だ。
7年前に閣議決定された「国家安保戦略」は輸出管理の徹底は掲げたが、大学などからの先端技術流出への備えには触れていない。政府はスパイ防止法制定も含め、中国への先端技術流出を防ぐ態勢を急ぎ作ってもらいたい。
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2020年12月9日付産経新聞【主張】を転載しています