米国のアザー厚生長官が8月10日、台湾を訪問し、蔡英文総統らと会談した。
米閣僚訪台は2014年の環境保護局長官以来で、1979年の断交以降に訪台した米高官としては最高位である。
自由や民主主義、基本的人権という共通の価値観を有している米台の関係強化を示す重要な訪問だった。
できることなら、加藤勝信厚生労働相も訪問して米台協議に同席し、新型コロナウイルスをめぐる台湾の成功体験に耳を傾ければよかった。日米台の連帯を示す絶好の機会となったはずだ。
今回のアザー長官の訪問は新型コロナ対策のためだけでなく、米国が台湾を守り抜く姿勢を示した意味合いがある。
米国の台湾関係法は、中国の軍事的脅威から台湾を守ることを定めている。ポンペオ国務長官やエスパー国防長官も随時訪台し、台湾の自由と民主主義を擁護する姿勢を一層鮮明にしてほしい。
中国はアザー長官の訪台は「一つの中国」原則違反だと唱え、「米台当局の往来に一貫して断固反対する」と強く反発した。
このような中国の独善的な主張は受け入れられない。中国は香港での弾圧や台湾への度重なる軍事挑発など、地域の平和を脅かしてきた。米台の関係緊密化は中国自身が招いたと知るべきである。
アザー長官は新型コロナをめぐる台湾の防疫上の成功を「透明性と公開性によるもので、民主主義の価値を示した」と称賛した。
米台は公衆衛生分野で協力関係を深めることになったが、連携強化はそれにとどまらない。
蔡総統との10日の会談でアザー長官は「台湾を強く支持する」というトランプ大統領の言葉を伝え、7月末に死去した李登輝元総統を「台湾民主化の父で20世紀の最も重要なリーダーの一人だった」とたたえた。12日には追悼場を訪ね、弔意を表明した。その後の電話会見で、台湾を「信頼できるパートナーだ」と評した。
トランプ大統領やアザー長官による台湾支持の発信は、安全保障上の大きな意味がある。台湾を「もう一つの香港」にしたい中国を牽制(けんせい)する効果があるからだ。
中国の台湾に対する軍事的挑発を抑止し、インド太平洋地域の平和と安定に貢献するために、日本も安全保障と公衆衛生の両分野で米台と連携していくべきだ。
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2020年8月13日付産経新聞【主張】を転載しています