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韓国の裁判所が9月27日、日本企業の資産の売却命令を出した。先の大戦時に日本の工場などに動員された朝鮮半島からの元労働者らによる一連の「徴用工」訴訟で初めてのケースである。
日本企業に実害が生じる事態が迫る、看過できない暴挙である。
問題の訴訟は三菱重工業を相手取り、名古屋の工場などに動員された元女子挺身(ていしん)隊の韓国人女性が賠償を求め、2018年に韓国最高裁が賠償を命じた。
今回は、差し押さえられた三菱重工の韓国内の資産について、韓国中部の大田地裁が、商標権や特許権の売却命令を出した。売却により原告側は、賠償金などに充てる4億ウォン(約3700万円)以上の現金を確保するという。
茂木敏充外相は28日の記者会見で「極めて遺憾だ。現金化は日韓両国に深刻な状況を招く」と述べた。実際の売却までにはまだ時間がかかるとみられるが、日本政府は座視してはならない。
韓国政府への抗議は当然としても、この不当性を広く国際社会に訴えるとともに、韓国政府の具体的行動を求める厳しい措置が必要である。
一連の「徴用工」訴訟では、新日鉄住金(現日本製鉄)の資産差し押さえを認める決定に対し、同社の即時抗告が今年8月に退けられた。こちらも深刻な事態が迫り、経済を含めた日韓関係へのマイナスの影響は大きい。
日韓の賠償問題は1965年の日韓国交正常化に伴う協定で個人補償を含め解決済みだ。
ところが韓国最高裁は、個人の請求権は消滅していないとの判断に転じ、日本企業に賠償を命じた。同種訴訟が相次ぐ要因となっている。その判決では法律に基づく徴用を「不法な植民地支配と侵略戦争遂行に直結した反人道的不法行為」などと決めつけた。
最高裁が史実を歪(ゆが)め、文在寅政権も「司法の独立」などを盾に責任ある態度を取らない。まっとうな法治の国には遠く、安定した関係など築けない。
自民党総裁選の日本記者クラブ討論会で、元外相の岸田文雄氏は慰安婦問題の日韓合意にからみ「これすら守らなければ何を約束しても未来は開けない」と言及した。すべて責任は韓国にある。「徴用工」問題でも日本企業の危機に対し、新政権は毅然(きぜん)と対応すべきだ。
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2021年9月29日付産経新聞【主張】を転載しています