米CNNテレビ(電子版)が米情報当局者の話として、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が手術を受けた後、重体に陥っているとの情報があると報じた。ロイター通信も、金氏が12日に心臓血管関連の手術を受けたと伝えた。
一方、韓国大統領府報道官は北朝鮮に異変は見られないと述べた。
独裁者である金氏が死亡、または再起不能の状態になれば、北朝鮮は不安定さを増し、不測の事態が起きる可能性がある。朝鮮半島をめぐる安全保障情勢に大きな影響が出ることは間違いない。
金氏の健康状態は不明だが、日本は警戒を怠ってはならない。
菅義偉官房長官は21日の会見で「コメントは控えたい」とした上で、「北朝鮮をめぐる動向には重大な関心を持って平素から情報収集、分析に努めている。米国と緊密に連携する」と述べた。河野太郎防衛相は会見で自衛隊による警戒監視活動について「常に緩みなく行っている」と説明した。
北朝鮮国内の異変を察知した中国やロシアが国境付近に軍を展開させる動きが過去にあった。自衛隊には北朝鮮軍の動静はもとより、中露両軍も含めて監視を続けてもらいたい。
金氏はまだ30代だが、相当な肥満体形で、健康に問題を抱えているとみられてきた。11日に党政治局会議を主宰したのを最後に、動静が確認されていない。祖父の故金日成主席の誕生日だった15日にも同主席の廟(びょう)に姿を現さず、健康不安の見方が強まっていた。
北朝鮮の体制は独裁者を守り、その意向を実現するためにのみ存在する。金委員長が死亡または再起不能になれば動揺は避けられず体制の崩壊や、軍が対外的に暴発することにも警戒が必要だ。
権力闘争や、これに伴う内戦が起きてもおかしくない。混乱を受けて北朝鮮の核・ミサイルが国内外に向けて発射されないという保証はない。北朝鮮の核施設を押さえるため、関係国が特殊部隊を派遣する可能性もある。
ウイルス禍のさなかだが生活苦にあえぐ北朝鮮国民が何十万人、何百万人も難民化して韓国や中国へなだれ込む恐れさえある。
北朝鮮という国家が存続するかどうかも含め、激変は避けられない。その近隣に位置し、自国民が拉致されたままの日本はあらゆる危機に備える必要がある。
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2020年4月22日付産経新聞【主張】を転載しています